Scott Ian Special Interview(前編)

12月 1, 2021

Text by Daishi Ato / Translation by Kyoko Maruyama

以前、スコット・イアンと初めて話したときに受けた印象は<永遠のギターキッズ>だった。長い顎ひげをたくわえてはいるが、彼がギターやバンドについてうれしそうに話す姿はキッズそのもの。その印象は今回のインタビューにおいても変わらなかった。1時間に及んだ取材中、ギターとの出会いやアンスラックスのギタリストとしての輝かしい思い出について、彼は昨日起こったことのように話してくれた。前編となる今回は、ギター、そしてJacksonとの出会いを中心に語ってもらっている。きっと、ギターにあまり興味がない人でも楽しく読んでもらえるのではないだろうか。なぜなら話している本人が楽しそうだったから。

 

― まず、スコットさんがギターを弾き始めたきっかけから教えて下さい。

 

9歳の時、テレビに出てるピート・タウンゼントを観たんだ。腕をグルングルン回しながらギターを弾いて、飛び回って楽しそうにしてる。そんなヤツ、見たことがなかったから「なんてカッコいいんだ!」と即、ザ・フーのファンになった。あのアグレッシヴさに夢中だったんだ。そして両親に「ギターレッスンを受けさせてくれ」と頼んだんだよ。

 

― 当時、彼以外にギターヒーローはいましたか?

 

ギターを弾き始めた頃は「とにかく好きなバンドの曲を弾けるようになりたい」という一心だった。1973〜74年頃かな。俺としては「レッド・ツェッペリンの曲が弾きたい」「ブラック・サバスが弾きたい」とそれだけ。エルトン・ジョンも大ファンだったけど、あまりギターで弾く曲ではないからね。その後、75年にKISSを知ったことで扉が開いた。ギターヒーローは当然、エース・フレーリー。KISS経由でエアロスミス、テッド・ニュージェント、チープ・トリック、ラモーンズ、AC/DC など、たくさんのバンドを発見していった。ギターヒーローっていうのとはちょっと違うけど、ツェッペリンやサバスの曲と同時に、ビートルズの曲も弾いてたよ。最初はとにかく曲を弾けるようになりたかったからさ。

 

― 当時の練習方法はどういったものだったんでしょうか?

 

ギターレッスンには通ったけど1年で辞めた。だって、ギター教師が教えるのは音楽論や楽譜の読み方で、あとは宿題として譜面を書かされたり……今はそういうこともちゃんとやっときゃよかったと思うけど、当時の俺には興味の持てないことばかり。「そんなのより“Whole Lotta Love”の弾き方を教えてくれ!」だったんだよ。「他のことはどうでもいい。リフを教えてくれ」「いや、こういうのも知ってなきゃダメだ」「なぜ?」……と不満が溜まって辞めてしまった。まるで仕事みたいになってしまって、楽しくなかったんだよ。自分にとってギターは弾いていて楽しいものであってほしかったからね。あれから何十年も経った今も気持ちは同じだよ(笑)。

 

だから練習方法は、とにかく大好きなアルバムを聴き、曲に合わせて弾くことだった。特にこの二人(両腕のタトゥーを見せながら)、アンガス(・ヤング)とマルコム(・ヤング)が俺にギターの弾き方を教えてくれたんだ。AC/DCを知ったのが77年。その時点ではギターを始めてまだ3年くらいだったから、コードくらいは弾けたけどまだうまくなかった。それでも「Let There Be Rock」をかけて、ひたすら曲に合わせて見よう見真似で弾いていた。多分、間違ってたと思う。でもそんなの構わず、何度も繰り返し弾いたんだ。だから、俺にギターを教えてくれたのはアンガスとマルコムだと言っていい。AC/DCに合わせて弾く。それが俺の練習だったのさ。

 

― スコアを見て練習したわけじゃなく、耳コピだったんですね。では、Jacksonギターとの出会いを教えて下さい。

 

出会いということであれば、ランディ・ローズが弾いているのを見たときだよ。雑誌とかで彼がJacksonを持って写っているのも見てたけど、Blizzard of OzzツアーがNYに来たときにライヴで観たんだ。すでにPolkadot Jacksonを弾いてたんじゃないかな。もしくはConcordeだったのか。はっきりと覚えていないけど、初めてJacksonを弾いているのを見たのはランディだった。そしてConcordeのあのシェイプを見て、なんてクールな容姿のギターなんだと思ったのを覚えている。マンハッタン48th Streetにある Sam Ashや Manny’s Musicといったギターショップには友人も働いていたので、俺はしょっちゅう出入りしてて、1981年頃に初めて店でCharvelを見たんだ。Jacksonも入ってくるようになった。Jackson Custom Shop RhoadsとCharvel San Dimas……ぶっ飛ぶような最高のギターだった。俺は機材を売って金を作ったけど、それでもJacksonは高すぎて買えなかったから、82年にCharvel のStar Body(Lightening Bolt)を買ったんだ。ネックを持った感じも最高だったし、弾きやすくて自分が一段うまいプレイヤーになれた気がした。それでもやっぱりJackson Rhoads が諦めきれなくてね。ANTHRAXは81年から活動をしてて、当時はまだ1stアルバムも出ていない無名バンド。俺は、昼は宝石商の父親の手伝いでメッセンジャーの仕事をしてた。稼ぎはすべて貯めて、ようやくSam Ashで Rhoads Custom Shopをオーダーした。カスタムだと時間がかかるから店に在庫があるヤツでどうだと言われたけど、「俺には欲しいギターのイメージがある。カスタムだ」と言い張って半年待ったんだ。むしろそうしておいてよかったよ。前金で半額払って、半年待つ間に必死に残りの金を稼げたからね。83年の何月だったかは覚えてないけど、そうやってようやく欲しかったギターが手元に届いた。今でも持っているよ。製造番号はRR503だから、ごく初期のものだ。『Spreading The Disease』の裏ジャケに写っている有名なやつさ。アナーキー・シンボルに<NYHC><Not All Around The Side>と書いてあるヤツ。あれ以上のギターに俺は出会ったことがないよ。Charvel以上だった。すごいサウンドなんだ。ピックアップはSeymore Duncan JB。『Spreading The Disease』は全曲、『Fistful of Metal』でもほとんど、『Among the Living』も全曲、『State of Euphoria』『Persistence of Time』でも弾いているし……今もスタジオで弾いてるよ。去年のミスター・バングルのアルバムでも弾いている。82年からということは40年近く経ってるわけだけど、サウンドは相変わらず素晴らしいんだ。

 

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― そんなに長く使えるギターだとは。

 

ツアーに持っていくのを止めたからさ。『AmongThe Living』あたりまではツアーで使っていたけど、その後は家に置いておくようにした。盗難にあったり、何が起きたら、と思って神経質になったんだ。その時点で「これは特別なギターだ」とわかっていたからさ。そんなわけで、今は悠々自適な隠居生活を送っている、というわけさ。

 

― いくらだったか覚えていますか?

 

おそらく当時でも2千ドルくらい。とにかく高かったのを覚えているよ。Custom Shopだから塗装もカスタム。たぶん、次に聞かれるのはこの質問だと思うんだけど……1986年、マネージャーがJackson社に俺とダン・スピッツのエンドースメントの交渉をしたんだ。ダニーもJacksonを弾いていたからね。でもそれ以上Jacksonを買う余裕がなかったからギターをもらえないかと思ったんだ。その分、ギター雑誌の広告でもなんでもやるから、と。ところがダニーにはイエスと言ったくせに、俺はリズム・プレイヤーだからと断られたんだ。頭に来たよ。個人的にめちゃくちゃ侮辱された気分だった。「マルコム・ヤングはどうなるんだよ!? リズム・ギターは重要じゃないっていうのか? トニー・アイオミがコードを弾くのをやめたらどうなる? 何をバカ言ってるんだ! ファック・ユー!」ってね。すると、とあるギターメーカーが新しいギターをくれたんだ。1987年のことだ。すごくいいギターを作ってくれたよ。でもJacksonのようにはいかなかった。この時点で3〜4本はJacksonを持ってたんだけど、とにかく頭に来てたからさ(笑)。で、2年ほどそのブランドのギターを弾いていたら、48th St のギターショップからJacksonに移った知り合いのスティーヴ・カウスマンから電話がかかってきたんだ。「我が社は君にエンドースメントしないという大きな間違いを犯した。どうか考え直して、僕らにエンドースメントさせてくれないか」って。彼の言葉を最後まで聞き終える前に俺は「もちろんだ! もう全然怒ってない!」と答えてたよ(笑)。「俺はただJacksonが弾きたいだけなんだよー!」って。リズムギタリストにギターはやらないと言われたときは寂しくて頭に来たけど、結局は何年経っても俺はJackson一筋なんだ。

 

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― まさにその質問をしようと思ってたところでした(笑)。そこまであなたを惹きつけるJacksonギターの魅力はなんですか?

 

ギターを弾いて40年、いや、それ以上。ほかにも素晴らしい音のギターはいくつもある。レスポール、ストラト、テレキャス……。でも俺のアンスラックスのリズム・ギタリストという仕事において、頭の中で描くサウンドを寸分違わずに出してくれるのがJacksonなんだ。81年にバンドというコンテクストの中で聴きたいと俺が思ったギター・トーン、それを出してくれたのが唯一Jacksonだった。他にも、すごくいい音の出るCharvel も持ってるけど、俺の最高のJacksonには敵わない。4〜5年前に King Vを作ってもらって以来弾いているけど、その初代King Vは俺の歴代ナンバーワン・ギターだ。82年にカスタムオーダーした1本を超えるギターを何年も経って作ってしまうところがJacksonという会社の素晴らしさを証明してる。とにかく、ANTHRAXで俺が出したいギターの音をどんぴしゃに出してくれるのはJacksonギターだけ、ということだね。

 

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― どんなプレイヤーにJacksonのギターをオススメしますか?

 

どんなプレイヤーにも勧めるよ。Jacksonというとメタルの、しかもソロを弾くリード・ギタリストが弾くギターというイメージだと思うけど、実はすべてのプレイヤーに向いている。なぜならクオリティが高いから。クリーンで純粋なトーンであれ、ヘヴィさを追求したメタル・トーンであれ、パンクロックなトーンであれ、Jacksonなら出せる。もちろん個人の好みはあると思う。鋭角的なシェイプのギターが嫌いだという者もいる。ポップバンドのギタリストがそういうギターを弾くのは合わないと思う者もいる。でもウィーザーのあいつ、なんて言ったっけ?

 

― リヴァース・クオモですか?

 

ああ、ウィーザーみたいなポップバンドで弾いているのは素晴らしいことだと思うよ。彼にもJacksonはすごく似合ってるし、それを見たキッズが「あのギター、めちゃクールだ!」と思うかもしれないからね。でも誰にだってオススメできる。VだろうとSoloistだろうと、どんなシェイプだろうと、必要なトーンが出せるよ。

 

― これから楽器を始めるビギナーのみなさんへアドバイスをお願いします。

 

一番のアドバイスは、好きな音楽を演奏しろということだ。もちろん練習をした上で。楽をして上手くなる方法はない。『何かを極めるには10,000時間を費やせ』とかいう啓発系の本があったと思うけど、とにかく練習するしかないんだよ。でも練習以外なら、好きな曲を弾け。好きな曲を練習しろ。夢中になれる曲を弾け。弾いていて笑顔になるような曲を。アドバイスといっても、俺には自分のやってきたことしかアドバイスできない。俺にとってギターは常にそういう存在だったんだ。ギターを手にして弾くと幸せになれる。AC/DCのリフを弾いているだけでハッピーになれる。もちろん自分のバンドでステージに立って弾ければ、ものすごくハッピーになれる! ギターを弾くことが俺を幸せに、いい気分にしてくれる。だから人にもそれを勧めるよ。好きじゃない曲を弾かねばならない状況にはなりたくないだろ? 金をもらってバンドに入ったとしても、セッション・ミュージシャンになったとしても、好きじゃない曲を弾かされたとしたら……俺のハートは持たないよ。ギターを手にして嫌いな音楽を弾くなんて、想像できない。俺にとって、まったくそれはあり得ない話だ。好きな音楽を弾き、練習練習練習だ!

 

後編に続く(近日公開予定)

 


スコット・イアン

1963年12月31日、米ニューヨーク生まれ。スラッシュ・メタル・バンド、アンスラックスの結成メンバー兼ギタリストとして40年活動を続けている。またクロスオーバー・スラッシュの最重要バンド、Stormtroopers of Death(S.O.D.)の中心人物であり、フォール・アウト・ボーイのメンバーと結成したザ・ダムド・シングスのギタリストでもある。2020年にはミスター・バングルの21年ぶりのアルバムにギタリストとして参加した。

 

Scott Ian OfficialWeb

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