Misha Mansoor Special Interview(後編)
4月 25, 2025

ニューアルバムの完成後には必ず行くと約束する。本当に日本は地球上で一番好きな国のひとつさ
約3年ぶりとなるMisha Mansoorの独占インタビュー後編は、前編でも話題にあがったアルバム『Periphery V: Djent Is Not A Genre』の中から、特に日本人からの注目を集めた楽曲「Thanks Nobuo」の話からはじまる。そこからは、ナードを自称するMishaのオタクトークが止まらない! 『ファイナルファンタジー』、ゲーム音楽の魅力、アメリカにおけるオタクの立ち位置、コーヒー、推し活……通常のリリースインタビューではなかなか聞けないような話題を中心にたっぷり語ってもらった。Mishaが今、最も訪れたいと思っている日本のある場所とは……?
Text by Daishi Ato / Translation by Kyoko Maruyama
― 引き続き、最新アルバム『Periphery V: Djent Is Not A Genre』について質問させてください。日本のメディアとしては、作曲家・植松伸夫氏に捧げた「Thanks Nobuo」について聞かないわけにはいきません。
実は、あの曲のアイデアは何年も前からあって、元々は数分程度の短いものだったんだけど、『ファイナルファンタジー』(以下、FF)の要素を入れてつくっていくうちに、一気にできあがったんだ。『FF VII』のメインテーマを思わせるメロディを忍ばせたんだよね。で、そういうことをするなら、せめて感謝の気持ちを伝えないとって思ったんだよ。僕たちなりの植松さんのへトリビュートさ。『FF』はメンバー全員が大ファンで、僕にとって植松伸夫さんは人生で最も影響を受けた作曲家の一人。ファンの多くは僕がMeshuggahから影響を受けてることは知ってるけど、植松伸夫さんからの影響はあまり知られていないかもしれないね。
― 植松伸夫氏の音楽の素晴らしさはどこにあるんでしょう。
メロディと音の選び方、そこから引き出される感情かな。『FF VII』と『FF VIII』のサントラは僕にとって特別な存在。使ってるのはシンプルなサウンドエンジンだから、音そのものは決してよくない。でも、楽曲のクオリティが圧倒的だから、プレステのサウンドエンジンで作られてることなんて気にならなくなるし、むしろ涙が出るほど感動しちゃうんだよ。音の選び方、コード進行、展開の仕方、キャッチーさ、映像との完璧な融合——すべてが素晴らしい。植松伸夫は間違いなく音楽の天才で、史上最高の作曲家の一人だよ。
― 『FF VII』はあなたにとって特別なゲームなんですね。
『FF』はアメリカで大ヒットした最初のJ-RPG(ジャパニーズRPG)で、『FF VII』は僕にとって初の本格的なターン制RPGだった。音楽も素晴らしくて、60時間とかプレイする中で、あの音楽がいろんな場面で何度も聞こえてくるから、自然と脳裏に刷り込まれていくんだ。今じゃ一種のノスタルジアって感じだよ。聴くたびに初めてゲームの世界に入ったときの感情が蘇ってくる。僕にとって本当に特別なゲームなんだ。ゲーム自体も大好きだけど、それ以上に音楽面で影響を受けてきた。もし『FF VII』をプレイしてなかったから、今の自分の音楽は全然違うものになってたと思う。
― 『FF』はもちろん、ゲーム音楽には魅力的なものが本当に多いですよね。
アートというのは、現実から離れて別世界に没入させてくれるものだよね。その中でもビデオゲームはインタラクティブなもので、実際にキャラクターになりきってプレイをするから、一番没入感が高く、現実から逃避ができる。そして、その世界にテレポートされて、そこで数時間生きることになる上で、音楽は欠かせない。これは本当に重要だと思う。ゲーム音楽は新しいジャンルだから、今はまだ映画やクラシックの作曲家ほどシリアスには受け止めてもらえていない。でも僕はどんなジャンルとも肩を並べるか、それ以上にゲーム音楽は素晴らしいと思ってるよ。でも最近は、ゲーム音楽と共に育ち、その重要性を実感してる世代が増えているから、少しずつ真剣に受け止められるようになってきていると思う。
― 彼と一緒に仕事をしてみたいんじゃ……。
オーマイゴッド! もし会えることがあったらそれだけで死んでも構わない! それこそ最大の夢だよ。実際は恥ずかしくて無理だろうから、同じ部屋の隅っこから彼の仕事をこっそり見ていたいね。僕のヒーローだから。
― これまでコンタクトを取ろうと思ったことはないんですか?
ないよ。だって僕には手の届かない存在だし、彼に比べたら僕なんて何者でもない。だから、こっちから連絡をとるだなんて怖くて……実際、彼が僕なんかと話がしたいわけないよ(笑)。
― なるほど(笑)。『Periphery V』は、自身のレーベル3DOT Recordingsからリリースした2枚目の作品となります。自分たちの力でリリースするという一連の作業には慣れましたか? 今回、ビジネス面において新たに気づいたことなどはありますか?
Peripheryのアルバムとしては2枚目のリリースだけど、そのほかにもソロプロジェクトや、レーベルに所属する他のバンドの作品も出していたんだ。自分たちのレーベルを立ち上げたことは、これまでに僕が下した最良の判断だったと思う。レーベル運営には労力がいるし、明白なビジョンが必要だから、専門家に任せたほうがいい場合もある。誰にでも向いているわけじゃない。でも僕らには、やりたいこと、達成したいこと、その方法に関して明確なビジョンがあったから、今はそれを実現する自由を手に入れたという感じだよ。
― なるほど。
(以前所属していた)Sumerian Recordsのときもクリエイティヴに関する主導権はバンドにあったから、自分たちが作りたいアルバムを作ってこれた。それでもプレッシャーはあったし、話し合いも必要で、ときには揉めることもあった。だから、最終的には自分たちの望むアルバムを作れたとしても、その過程ではストレスがあったんだ。でも今はやりたいことを追求できるし、誰からも反対されない。マネージャーもバンドと同じ考えを共有してくれている。だから今は全てがスムーズで、アートだけに集中できる。悩みの種は何もないよ。
― 現在の音楽ビジネスについてどう感じていますか?
興味深いし、予測できない面もある。AIがどう関わってくるのか今はまだわからない。でも、音楽業界がどう変わろうと、もっと厳しくなろうと、僕らはこれまで通り音楽を作り続けるよ。僕が音楽を始めた理由は楽しいから、だけだからね。音楽で生計を立てられるのはとても幸運だし、今の状況は素晴らしいけれど、音楽を作り続ける理由は単純にそれが好きだからなんだよ。だから、それさえできていれば僕らはハッピーだ。
― なんだか、3年前に話を聞いたときよりも言葉に力があるというか、自信に溢れているように感じます。
そりゃあ、3年分の経験を積んだからね。当時は大きなギャンブルのようで、怖い部分もあった。でも、3年間で何枚もアルバムを出して、「これでよかったんだ」と思える自信がついた。怖かったけど、正しい選択だったと思ってるよ。
― 前回お話を聞いたとき、あなたはコーヒープロジェクトGolden Lantern Coffee Roastersを始めたばかりでした。その後、ビジネスは順調ですか?
ゆっくりだけど成長してるよ。これは完全に僕の「オタクの情熱」というか、コーヒーが本当に好きでやってるだけなんだけどね。これで金が稼げるかどうかはわからないし、気にもしてない。コーヒーを扱ってるだけでハッピーなんだよ。残念ながら、アメリカ人はまだ、産地や品質や文化的体験としての「オタク的コーヒー」というか……まあ、今は「サードウェーブコーヒー」という呼ばれ方をしてるけど、そういったものに対する理解が低い。アメリカ文化において、コーヒーはあくまでも「手っ取り早く、目を覚ますためにカフェイン摂取するための道具」であって、香りや味を味わう文化的体験ではないんだ。そこら辺の理解を少しずつ広めていければと思ってるよ。
― もっとアメリカ人はコーヒーにこだわりがあるかと思っていたので、意外です。コーヒーなんて人によっては毎日飲むものだし、アメリカ人は気にしそうじゃないですか。
その通り。結局は、みんな不味いスターバックスのコーヒーしか飲んだことがないってことなんだと思う。それがコーヒーの味だと思ってる。でも、普段は「コーヒーは嫌いだ」と言う人でも、僕のコーヒーや良質なコーヒーを飲むと「こんなのは初めて飲んだ」と驚くんだ。そうすると、「どこでこんなコーヒーを買えるのか?」と思うようになる。そこから始まるんだ。
― 先ほど、ご自身のことを「オタク」と言っていましたが、かつて、日本ではオタクであることは恥ずかしいこととして考えられていました。でも、今では「推し活」という言葉が使われるくらい一般的なものになってきています。アメリカでオタクとして生きることは大変なんでしょうか?
状況は日本とまるで一緒だね。僕も若い頃からnerd(オタク)で、そのことで随分と肩身の狭い思いをしてきたけど、今じゃオタクたちがいろんな分野で影響力のある立場に就くことで、「オタクだっていい。オタクは恥じることじゃない」と身をもって証明しているんだ。そのことが他の人に影響を与えることもあるし、純粋な気持ちで没頭している限り、それでいい。つまりは情熱だよ。人間は情熱を持って何かをやることが好きだ。オタクはアートにせよ、興味あることにせよ、情熱を注いでいるだけ。バカにすべきことじゃないんだ。
― アメリカでもそんな状況になっていたとは驚きです。
確かに、アメリカは案外保守的なところがあるからね。でもすべての物事はサイクルだと言うじゃないか。今じゃ、オタクであることを主張したり、オタクのふりをする人間がいるくらい。それくらい「オタクはクールだ」ってことになっちゃってるよ(笑)。
― それはコロナ禍の影響が大きいのかもしれないですね。
それは大きいね。元々、オタクがやることの多くが屋内でやるものだからな! コーヒーに夢中になったり、パン作りを学んだり、シムレーシングにハマったり、アニメを観たり、ゲームをしまくったり……って全て僕がやってことだけど(笑)。パンデミックの時期は他人と過ごす時間が限られて外出できなかったから、そういうことに没頭できたんだろうね。いい点だ。
― ミーシャさんはここ3年でまた新たなビジネスを始めたんじゃないですか?(笑)。
実は、ひそかに友達とビデオゲームの制作を始めたよ。ものすごくゆっくりとやってるから、まだどうなるかはわからない。時間が足りなさすぎる! あと、最初にも話したけど、試乗車の運転を始めたんだ。車に乗って、そのレビューを書くという仕事さ。ビジネスはそろそろこの程度にしないと手に負えなくなる(笑)
― ツアーもしてますし。
そうなんだよ。しかも新たに夢中になるものを見つけちゃってさ。ユーロラック・シンセサイザーっていうモジュラーシンセなんだけど知ってる? 日本ではラックモジュールって呼ばれてると思う。今、それにハマってる。おかげで時間も金も吸い取られてるよ(笑)。
― アルバムリリース後はツアーで世界中を回っていますね。
うん、楽しくやってるよ。普段はそれぞれ遠くに住んでいて、アルバム制作以外で集まれるのはツアーのときくらいだから、オフでも親友な僕たちにとってみんなで一緒に過ごせる時間は本当に貴重でね。それに、ライヴもどんどん楽しくなってきてる。今はどこへ行ってもファンが待っててくれるのが嬉しいし、新しいレベルに上がった感覚があるよ。実際、ライヴはすごく好評で、もう少し日程を増やそうってバンド内で話してるところなんだ。
― そういう話を聞くとますます「日本は?」と思うのですが……。前回の来日からもう8年が経ちますよ。
リップサービスではなく、日本はツアーで訪れるのも、遊びに行くのも、本当に大好きな国のひとつなんだよ。だから、早く日本公演を実現したいとプッシュしてるところ。ただ、新しいアルバムができあがるまではツアーをやらない予定だから、数週間後から制作に入るニューアルバムの完成後には必ず行くと約束する。本当に日本は地球上で一番好きな国のひとつさ。
― たくさんの人が待ってます。
僕らも彼らに会いたい!
― 前回以降、プライベートでも日本には来ていないんですか?
パンデミック直前に、東京と大阪でクリニックをやった。それが日本を訪れた最後。だから年内になんとか行きたい。いつも時間が足りないから、今度は1週間くらい滞在してちゃんと見てまわりたいな。
― 音楽関係を除いて、日本で今、一番行きたいところはどこですか?
(即答で)SUZUKA! 鈴鹿でF1! シミュレーターでは何度も走ってるけど、本物はやっぱり違うからね。もし行けるならぜひ鈴鹿に行きたいよ。夢だな~!
ミーシャ・マンソー
米メリーランド州生まれ。ギタリスト、ビジネスマン、起業家、作曲家、作詞家、音楽プロデューサー。ジェント(Djent)ムーブメントの創始者であり、プログレッシブ・メタル・バンド、ペリフェリーの中心人物として広く知られている。2005年にワシントンD.C.で結成され、グラミー賞にもノミネートされたことがあるペリフェリーは、挑戦的で、中毒性があり、カタルシスを誘う現代のヘヴィミュージックの先駆者的存在。2013年にはMetal Hammer誌のGolden Gods Awardで「Breakthrough Band」に選出。メシュガー、ドリーム・シアター、ザ・デリンジャー・エスケイプ・プラン、アニマルズ・アズ・リーダーズなど、ラウドロック界の様々な分野で活躍するバンドと頻繁にツアーを行い、ステージ上でもステージ以外でも、紛れもないその実力とカリスマ性で高い評価を得ている。
Misha Mansoor Official Instagram
https://www.instagram.com/mishaperiphery/
Periphery Official Web
http://www.periphery.net/
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