GUS G. Special Interview(前編)

3月 29, 2022

Text by Daishi Ato / Translation by Kyoko Maruyama

ギリシャ出身のギタリスト・ガスG.は、ファイアーウィンドのギタリストとして活躍する一方、オジー・オズボーン・バンドを筆頭に、様々なバンドの作品やステージに名を連ね、世界で最も忙しいギタリストのひとりとして各国を飛び回っている。今回は昨年リリースされた自身初のインストアルバム『Quantum Leap』の話から、彼のルーツ、オジー・オズボーン・バンドのオーディションについてなど、様々なトピックについてたっぷり話を聞いた。前編となる今回は、かつて「インストアルバムには興味はない」と語っていた彼が、なぜインストアルバムの制作へと向かっていたのか、というところから話を聞いてみた。

 

― 最新ソロアルバム『Quantum Leap』はとてもいい作品ですね。ご自身でも気に入っていますか?

 

これはパンデミックの副産物のようなアルバムなんだ。2020年の春、計画してたことがすべて一旦保留状態になってしまって、「これはこのまましばらく家にいることになるぞ」と気づいた。そこで曲を書き始め、僕にとっては初となるインストゥルメンタル・ギター・アルバムを作ることにしたんだ。おかげで、最初のロックダウンの2か月間を乗り切るのにとても助かったよ。去年はリリースに向けて何本もビデオを撮影したりしてたよ。インストで1枚アルバムを作るっていうのは新鮮な体験だったけど、出来にはとても満足してる。これまで作った作品の中でも最も表現力に富んだ1枚だと思うよ。

 

― 過去に「インストゥルメンタル・アルバムに興味はない」と発言していたのを読んだのですが、どうして気が変わったのでしょう?

 

ああ、確かに言ってたね(笑)。しかも何年間も言い続けてた。

 

― そうですよね。

 

自分でもわからないけど、その1歩を踏み出すのが怖かったのかもしれない。前からインスト曲はやっていたし、アルバムにも1〜2曲は必ずインストものを入れていた。今回はたまたまそういう時期だったんだろうな。ロックダウンで家にいるしかなくて、スタジオに行くことも誰かに会うわけにもいかず、誰とも一緒にプレイできなかった。だからこそ今がそのタイミングだと思ってじっくり腰を据え、時間をかけ、どうやって実現しようかと考えたわけさ。タイトルを「大きな一歩を踏み出す」という意味の「Quantum Leap」としたのもそういうこと。ギタリストとして、インストでアルバム1枚という形で自分を曝け出す覚悟はあるか?というのかな。そう言うと「何言ってるんだ? 君はギタリストだろ。いつもそうじゃないか」と笑われるかもしれないけど、正直、怖い部分もあったんだ。でもようやく作れた。そして作るからには、退屈なギター・アルバムにはしたくなかった。ちゃんとした楽曲があるものにしたかったんだ。ギタリスト以外のリスナーでも聴いて楽しめるものであってほしかったんだよ。

 

― 確かに過去には「自分がインスト・アルバムを作ったら退屈だろう」と言っていましたね。もちろん、そうではないものになりましたが。

 

そうであってほしいよ!

 

― ボーカリストを迎えるときと、今作のようにインストゥルメンタルで臨むときとで曲作りにおける意識は変わってくるものなんですか?

 

答えは、イエスとノーの両方かな。似ている部分はあるよ。今回、ギターをシンガーだと思って曲を書いてみたんだ。キャッチーな、一度聴いただけで覚えられそうなメロディを書くことがゴールだった。同時に、普段以上に冒険をして、これまでとは違うスタイル、例えばプログレの要素を取り入れたり、ブルージーなことをやってみたりした。垣根を越えて、自分の領域を少し押し広げてみる、ってことさ。ただ、テクニック重視になりすぎないようにアレンジには気を使ったね。ともすると、インストではテクニックに溺れてしまうし、パーツをあれこれと詰め込みすぎてまとまりがなくなることも多い。そうならないように、一つの車線からはみ出さない努力をした。そんなわけで、似ている部分と、ときに違うアプローチで取り組んだ部分が両方あるよ。ボーカルがないインストゥルメンタルではやろうと思えばなんだってできる。好きなだけキーを変え、テンポを変え、何トラックも重ねあげ……と可能性は無限にある。その分、いかにナビゲートするのか。曲作りで最も気を使ったのはその部分だね。

 

Gus G Special Interview Vol1 B

 

― ガスさんがメロディメーカーとして影響を受けている作曲家は誰ですか?

 

ジョー・サトリアーニ、マイケル・シェンカー、ゲイリー・ムーア。

 

― なぜ彼らなんでしょう。

 

だって、彼らが最高だからさ(笑)! いつも言ってることだけど、ジョー・サトリアーニはインストゥルメンタル・ロックのキングだ。彼を聴いていると、ボーカルがなくてもいい、ギターだけで十分だと思える。他にも、イングヴェイ・マルムスティーン、ポール・ギルバート、マーティ・フリードマン……影響を受けたギタリストは大勢いる。でもサトリアーニやゲイリー・ムーアのメロディアスなアプローチ、表現力、ビブラート、フレージングの素晴らしさと言ったら……。テクニックはもちろんだけど、テクニック以上に重要なのはメロディ。テクニックは楽曲をより面白いものにするスパイスみたいなものにすぎない。

 

― ファイアーウィンドの曲を書くのとも、また違いましたか?

 

ああ、今ではファイアーウィンドも独自のスタイルとサウンドが確立されている分、ソロのほうがより実験的になれる。とは言え、どちらも同じ僕という人間が曲を書いてるから当然似る部分はある。それを除けばソロの方が冒険的で、実験的……という言葉が相応しいかはわからないけど、ファイアーウィンドではやらないなということができる。例を挙げるなら、今回やってる「Night Driver」はシンセウェイヴ風な曲で、ロックですらない。あれはファイアーウィンドじゃ絶対にやれない曲だよ。ギタリストとして、そういった違うことができるのが楽しいね。

 

― ソロ活動だけでなく、ガスさんは常に精力的な活動をしているイメージです。何があなたをそこまで駆り立てるんでしょうか?

 

音楽が好きという気持ちかな? というか、それってミュージシャンとして持てる最もピュアなものだし、音楽を好きな気持ちは終わるものではない。自分にとって完璧な曲、完璧なメロディを追求したいという思いは終わることなく、ずっと続くものなんだ。アルバムを1枚、2枚……5枚作ったからってそこでおしまいにはならない。少なくとも僕にとってはね。常に書くべき“次の曲”がある。言葉で説明するのは難しいんだけど、もっと音楽を作りたいという思い、それが僕を駆り立てる。それが僕の精神なんだと思うよ。

 

― ご自身の作品だけでなく、ゲストとして他のアーティストの作品に参加することも多いですよね。

 

たまにだけどね。ゲストでソロを弾いてくれと言われることは多いけど、すべてを引き受けるわけじゃない。好きだったらやる、それだけだ。あとはギャラがよければ(笑)!

 

― (笑)。ご自身では答えづらいかもしれませんが、なぜそこまで声がかかるんだと思いますか?

 

ハハハ! なぜだろう? 声をかけてくれる連中は僕のギタースタイルが好きなのかもしれない。で、この曲のここであいつに弾いてもらいたいと思うとか。

 

― 謙虚ですね。

 

いや、もし自分のアルバムで誰かをゲストに呼ぶとしたら、これと思える声だったり、コラボレートしたいと思う何かを相手が持ってるからで、そういう相手にはこちらからアプローチし、イエスと答えてもらいたいと願う。僕のこともそう思ってくれているのかもしれない。

 

Gus G Special Interview Vol2 B

 

― では、ガスさんがギタリストとして一番幸せを感じる瞬間はどんなときですか?

 

とても哲学的ないい質問だね(笑)。言ってみりゃ、ギターを手にしていればそれだけで僕は幸せだ。あとは音楽を作ったとき。例えば、曲の最初のアイディアが生まれた瞬間、自分でも「これはいいぞ」と思えて夢中になれる瞬間、そういうときに最高の幸せを感じるよ。そしてそれを自宅スタジオのコンピューターでデモにする。あとで聴き返して「すごくクールな何かが生まれたぞ」と思えたなら、曲に仕上がるまで作業を続けるんだ。

 

― ガスさんは幼い頃から様々な音楽を聴いていたというのは本当ですか?

 

ギリシャで生まれ育ったから、子供の頃はドメスティックな音楽も自然と耳にした。父は結婚式で伝統的なギリシャの音楽を歌ったりしてたんだ。でも正直、そういう音楽はあまり好きになれなかったな。ただし、ブズーキ(ギリシャの民族楽器)だけは好きだったよ。12弦ギターみたいに各弦が対になっていて、速弾きもしたりするから弾くにはかなりのテクニックが必要なんだ。

 

― そうだったんですね。

 

でも、ロックンロールを聴いて衝撃を受けて、たちまち夢中になった。以来、どんな音楽も聴くけど一番好きでしっくりくるのはロックとメタルだよ。でも、ニューエイジもポップスもなんでも聴くよ。大切なのはスタイルではなく、いい音楽かそうじゃないかの違いだけだ。いい曲であればドラムの打ち込みを使ったポップソングだろうが、ジャズソングだろうが関係なく楽しめる。特に大人になるとそうだね。若い頃は「メタル最高!」ってばかりだったけど。

 

― ギターを弾き始めたきっかけはピーター・フランプトンだそうですが、どんなところに惹かれたんでしょうか?

 

これも父のおかげさ。『Frampton Comes Alive!』のアナログ盤がうちにあったんだ。見開きのジャケットで、広げると黒のレスポールを弾いてるピーター・フランプトンの姿がまるでポスターのようだった。そのアルバムからトークボックスのエフェクトでギターを弾いてる曲を聴かせてくれて、まるでギターがしゃべってるみたいだった。当時は映像を見たわけじゃなかったから、音だけを聴いて「ロボットみたいだ」と思って父親に尋ねたんだ。「これってロボットがしゃべってるの?」「いやいや、ギターをしゃべらせているんだよ」「ええ!?」ってね。9歳児には衝撃だったよ。「自分もこれを弾けるようになるぞ」と思ったんだ。それでしばらくして父親にギターを買ってくれるように頼んだらクラシックギターを買ってくれたもんだから、「エレクトリックじゃないのか……」とちょっとがっかりしたのを覚えてるよ(笑)。

 

― 当時、ピーター・フランプトン以外のギターヒーローは誰でしたか?

 

その頃はまだ幼すぎて、他にどんなギタリストがいるのか、誰が誰なのかも知らなかったんだ。ただ、家には父のレコードがたくさんあったから、ザ・ビートルズやピンク・フロイドといった名盤を聴いてたんだ。それで90年代初め、12歳くらいで、テレビでガンズ・アンド・ローゼズやメタリカ、アイアン・メイデンなどを見て、多くのギタリストやバンドの名前も知るようになったんだ。僕には兄がいたわけでもないので、誰かの影響を受けるということがなくて、テレビで見たものしか知らなかった。でもティーンになる頃にはMTVで見たスラッシュやメタリカを好きになってた。ニルヴァーナも好きだったよ。グランジの時代、13歳の自分には誰よりもクールなバンドだったね。

 

― 当時はどうやってギターを練習していたんですか?

 

音楽学校でレッスンを受けたよ。でもさっきも言ったように、最初はクラシックギターだったし、教師はギターだけではなくピアノやアコーディオンも教えるような人だったから、最初の4年間はコードと音楽理論を少し学ぶ程度。本格的にギターを学ぶようになったのは、14歳でエレクトリックギターをようやく手に入れてからだね。音楽学校でバークリーメソッドの本を教材に、聴音訓練、音楽理論、ハーモニーなど総合的に学んで、同時に好きな曲をカセットやレコードで聴いては好きなリックを弾いたりしていたよ。

 

― 若い頃はメタルばかりで、大人になってから他の音楽も聴くようになってそこから影響を受けたと言っていましたよね?

 

当然、人生ずっとメタルを弾いているわけなので、今も好きで弾くのはメタルだ。でも色々な影響を受け、いろんな音楽を聴いたことがスタイルのためになったと思う。ミュージシャンとしての広がりが生まれるからね。例えば、ブルースロックが好きだよ。ゲイリー・ムーアをさっき挙げたけど、彼のハードロック・アルバムはもちろん、ブルース期も好き。アルバート・キング、B.B.キング、スティーヴィー・レイ・ヴォーンなんかももちろん。あと、トラディショナルなメタルも好きだ。70年代と80年代のメタル・ギタリストのコンビネーションが、僕のプレイの核になっていると思うし、それはきっと変わらないと思う。でも違う音楽にもオープンでいられれば、ミュージシャンとしての広がり、進歩が生まれるんだ。

 

後編に続く

 


ガスG.

本名:コンスタンティノス・カラミトロウディス。1998年にファイアーウィンドを結成し、活動を始める。 2009年8月にオジー・オズボーンに見出され、2017年の春まで彼のバンドでリードギタリストを担当。オジーのバンドのギタリストとして活躍する一方、12枚以上のスタジオアルバムを発表し、ソロアーティストとしても高い評価を得る。アーチ・エネミー、ドリーム・イーヴル、そして彼自身のバンドであるファイアーウィンドなど、様々なアーティストと共に世界各地をツアーする。ファイアーウィンドは、2017年初めに8枚目のスタジオアルバム『Immortals』をリリースし、ギリシャを拠点とするバンドとして、世界のアルバムチャートにランクインした。

 

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