RYOJI SPECIAL INTERVIEW(前編)
7月 8, 2022
Photo by Mitsuru Nishimura / Text by Daishi Ato
日本人で唯一、本国アメリカのJacksonと直接エンドース契約を結んでいるのがGYZEのギタリストRyojiだ。本人は「ラッキー」と表現するが、彼の話を聞いていると、圧倒的な実力はもちろんのこと、持ち前の度胸で道を切り開いている部分が大きいことがわかる。前編となる今回のインタビューでは、音楽やJacksonとの出会いやギターの練習方法を中心に話を聞いた。
― まず、このギター(Custom Shop製Kelly)がカッコよすぎますね。
これは全面ミラーなんですけど、もともとキッスのポール・スタンレーが好きで小学生の頃にギターをはじめたので、そうなったらもう選ぶのはミラーですね。あとは、昔から変形ギターが好きで、Kellyが世界一美しいシェイプだと思ってるんですよね。
― なるほど。
あと、僕はヴァイオリンも弾くので、ヴァイオリンの曲を弾くときのためにウリ・ジョン・ロートみたいな32フレットが欲しくて、アメリカ本国の担当者と去年ぐらいからそれを作れないか交渉をしてます。まだ実現には至ってないですけど(笑)。
― 勝算はあるんですか?
どうなんですかね!僕らのバンドもこれから世界に出て行く段階なのでそんなにワガママは言えないなあと思いつつ、必要なことは一応リクエストしてみるっていう感じですね。
― そもそも、本国と直でエンドースを組むってすごいですよね。
ただラッキーなだけです。僕は昔から仕事で英語を使っているので、普通にコンタクトをとって、やりとりしています。
― ……とは言いますけど、そんな簡単じゃないはずですよ。
僕らのバンドは最初からラッキーだったんですよ。デビューがイタリアのレコード会社だったし、エージェントもヨーロッパの会社と契約できて。そのおかげで日本人が初めて出るような欧米のフェスにも出られたりしたので、それもラッキーだったと思います。でも、〈70,000トンズ・オブ・メタル〉っていうメタルクルーズに出たときにオールスターイベントっていうのがあって、そこに僕がギタリストとして選ばれたりして、ギタリストとしてもきちんと評価されてたのかなと思うとうれしいですね。
― GYZEはデビューが海外なんですよね。
僕は北海道から東京に出てきたんですけど、素直に思ったことを言ってしまうことも多々あり、それは時として日本人にはあまりよく思われないみたいで。別に失礼なことを言ったりしているわけではないと思うんですけど、海外との交渉と同じように行った場合にやりにくさがあって。
― でも、今の時代は東京に出てくる必要もあまりないですよね。
結果としてそうでしたね。10年を経て今はコロナ禍になったことでそういう動きが加速したし。当時は東京に出てきたはいいけど、イタリアのレコード会社とチャットとメールのやり取りで仕事が成り立ってました。
― 遠く離れてるからといって話ができないわけではないですからね。
そうすることでほかの東京のメタルバンドよりもインターナショナルな感覚で活動をスタートできたというのはあるかもしれないですね。それで、イタリアから出したデビューアルバムが売れたらトントン拍子にメジャーデビューの話が来て、という感じでしたね。突然Amazonのメタルランキングで1位とかになって、何が起こったのか分からなかったし、CDの売れない時代に新人でそれだけ聴いてもらえたのは本当に嬉しかったですね。
― Ryojiさんが音楽に触れたきっかけはなんだったんですか?
キッスですね。あと、北海道に住んでいたこともあってGLAYも好きでした。GLAYは最近になってまた好きです。こないだ、デスメタルでGLAYのカバーをしてYouTubeに上げたらHISASHIさんがリアクションをくれて、すごくうれしかったですね。
― どんなリアクションだったんですか?
「癖リスペクトありがとー!」って(笑)。
― あはは! それはたまらないですね! キッスはどうやって出会ったんですか?
親父が好きだったんですよ。それでキッスが再結成したときに雑誌に載ってて、僕は当時小学生でウルトラマンが好きだったからその延長で「なんだ、このすごい人たちは!」って、70年代にリアルタイムでキッスを好きになった人たちとおそらく同じ衝撃を受けました。それから地元の輸入盤レコードショップでライブビデオとCDを買ったりして。
― ビジュアル面でのインパクトも大きかったと思いますが、そのほかにキッスのどんなところに惹かれたんですか?
曲が素晴らしいですよね。言い方は悪いけど、初心者でも手が出しやすい音楽だったというか。その頃、僕はクラシックギターを習ってたこともあってすぐに弾けたので、当時は学校から帰ったら水性マジックで顔にペイントして、ちゃぶ台に乗って、『地獄の狂獣 キッス・ライヴ』を通しで弾いてました。毎日親の前でミニコンサートをやってましたね(笑)。
― そんなにハマってた上にギターも弾けたということは、当時から将来は当たり前のようにバンドをやるつもりだったのでは。
そうですね。小学3、4年生の頃には「俺はロックスターになりたい」って周りに話してましたね。
― 初めてバンドを組んだのは?
小学生の頃、お遊戯会の延長みたいな音楽発表会でGLAYを弾きました。そのあと、中学に入ってすぐに先輩に誘われてオリジナルバンドを組んでパンクやミクスチャーみたいなのをやりましたね。ライブハウスデビューの1曲目はセックス・ピストルズ「アナーキー・イン・ザ・UK」だったんですよ。中学時代は今みたいなロン毛じゃなくて髪ツンツンで、チェーン付けて、ライダースを着て学校に行くような生徒でしたね。なので先生とはよく衝突していましたね(笑)。
― 周りに同じような仲間っていましたか?
いなかったですね。なので当時の僕は学校イチ目立ってたと思います。中1のときからギターはちゃんと弾けてたから、学校のおっかない不良の先輩からバンドに誘われたり、すごくよくしてもらったので、「ギターやってると便利なんだな」と思ったこともありました(笑)。
― ギターがコミュニケーションツールになる。
自分を守る盾にも矛にもなるっていう感覚もあったかもしれないですね。
― 個人練習ではどんなことをやっていたんですか?
僕ね、うまくなるために鬼のように練習をしはじめたのは中学を卒業してからなんですよ。
― そうなんですね!
キッスとかメタリカとかパンクぐらいならそこまで練習しなくても弾けたんですよ。でも、ヘヴィメタルの速弾きをやるようになってからは、学校から家に帰ってからメトロノームに合わせて何時間も基礎トレーニングをやったりしてましたね。例えば、右手を鍛えたかったらメタリカの「マスター・オブ・パペッツ」をダウンピッキングで何回も弾いたり。その後、時代的な流れもあってDTMをやるようになって、自分でレコーディングできるようになったので、そこからはレコーディングをしながら上達していった感じでしたね。
― なるほど。
エレキはエレキで習ってたんですよ。18歳のときに地元でソロデビューしたんですけど、その前にちゃんとギターのスキルを身に着けたいなと思って、札幌ですごく上手な人から習ってたんですね。そのときの師匠がGYZEのもう1人のギターなんですけど。
― やっぱり、自分の好きなフレーズを弾きまくるというのが練習になるんですね。
僕は意外と理屈系なので、闇雲に弾くんじゃなくて、自分の演奏を研究しながらやってましたね。
― 具体的には?
ピッキングのアングルだったり、運指における無駄をなくすことだったり。あとは、ボールペンの先で弾くことによって細かいピッキングをできるようにするっていうこともやってたし、左手にヘアゴムをつけて運指力をつけたりもしてました。
― それすらも楽しかった。
楽しかったと思うし、すごく負けず嫌いでもあったんですよ。当時は自分より上手い人が目の前にいるのが許せなくて(笑)。それも大きかったと思います。
― ああ、高校に入ると周りに凄腕のプレイヤーが増えていったんですね。
そうですね。同じぐらい上手い同級生がいたり、僕よりも上手い先輩がいたり。中学まではギター人口がそんなに多くなかったのでぶっちぎりで自分が一番上手いと思ってたんだけど、高校に入って少し世界が広がったら闘争心に火がつきました(笑)。でも、結局は純粋に音楽が好きだったからたくさん練習したんですよね。
― 高校生の頃に影響を受けたギタリストは誰ですか?
速弾き系でいうとチルドレン・オブ・ボドムが好きでした。僕はギターボーカルなので、もう亡くなってしまったアレキシ・ライホからの影響は大きいですね。あとはトリヴィアムとかドラゴンフォースとかアングラとかの2000年代初頭のメタルバンドの曲はひと通り練習した気がします。
― そうしていく中で自分の好みの音が見つかっていくと。
ギタリストで一番いいなと思うのはウリ・ジョン・ロートと山本恭司さんですね。リードギターに表情をつけて奏でられる人が好きです。でも、いま影響を受けているギタリストがいるかというとそういうことはないんですよね。ヴァイオリンの音の揺れ方とかボーカリストのビブラートをギターで再現してみたりして影響のもとがギタリストではなくなってきてます。僕はクラシックや映画音楽が好きなので、ゆくゆくはそういう音楽家になりたいと思ってますね。僕は今、三味線、チェロ、二胡とかも弾くから、自分がつくった曲を再現する楽器のひとつとしてのギター、という感覚があるかもしれないですね。
― Jacksonのギターと出会ったのはいつですか?
キッスの2代目のギタリスト、ヴィニー・ヴィンセントが使ってたのが最初にみたJacksonだと思います。あとはランディ・ローズも使ってたし、アレキシ・ライホも初期はローズモデルを使ってたし、ど真ん中のヘヴィメタルの人が使うギターとして認識してました。友達がKelly使ってて綺麗なギターで羨ましかったのも覚えてますね。でも実際に使うようになったのは大人になってからですね。
― どんな出会いだったんですか?
もともと僕は別ブランドのエンドーサーで、そのブランドから僕のシグネイチャーピックをリリースしたいと言われたんです。ですがデビュー前から別の会社に無償でピックをサポートしていただいてて。その担当に相談しても「Ryojiくんのピックはうちで面倒見たい」と言われたので義理を通したかったんです。そうなると前エンドースブランドから「それじゃあエンドースは続けられない」と。正直ピックまでもが契約の範囲じゃないはずなんですけどね。きっと面白くなかったんだと思いますよ(笑)。それで前から付き合いがあった方から「Jackson、どう?」って誘われたのでお願いすることにしました。そこで最初にカスタムショップのローズモデルを弾き始めて、本格的にJacksonを使い始めました。
― 触ったときのことは覚えてますか?
ネックがすごく好みでした。高校生の頃に触ったことのある某ブランドのネックの薄さと、当時弾いていたブランドの中間にあるようなシェイプがいいと思いましたね。それから今までのギターより全然レコーディング時の抜けの良さが印象的でした。
― 今はどういうところに魅力を感じますか?
音がいいのは当たり前としてやっぱり、ヘヴィメタルの元祖っていうことですよね。ヘヴィメタルが一番元気だった80年代に初めてヘヴィメタル専用ギターを出していたギター史における伝統を感じますよね。具体的にいうとフェンダースケールと呼ばれるロングスケールネックに太い音の出るピックアップがついてフレットも多いというメタルギターの礎になったようなブランドだと思ってます。
― これまで話を聞いてきたギタリストにJacksonのギターをどんな人に勧めたいか聞くと、ほぼ全員の回答が「オールジャンル」だったんですよ。そういう意見についてはどう思いますか?
意外ですね! 結局のところギターを演奏するのは右手と左手と脳みそだからこのギターだからこれができる!みたいなことは考えたことはないですけど……僕はできればヘヴィメタルの人に使っていてほしいですね。ポップバンドがJacksonを使ってるところはあまり見たくないかもしれないです。ヘヴィメタルの血が流れているところに存在していてほしいギターだし実際にそうだと思うんですよね。でもオフスプリング、ペニーワイズ、サム41みたいにパンクの中でもメタリックなサウンドを出したいバンドならアリだと思います。それでもJacksonはヘヴィメタルの代名詞であってほしいな。変にオシャレにならなくていいと思う(笑)。
― 昔から自分が知っているJacksonであってほしい。
昔にこだわると進化がなくなるから、「こうじゃなきゃ」っていうのはないんですけど、Jacksonはヘヴィメタルであるほうが個人的にはうれしいですね。シェイプが尖ってるんだから、音楽も尖ってないと(笑)。
後編に続く(近日公開予定)
Ryoji Shinomoto
1989.11.8生まれ。
GYZE(ギゼ)のフロントマン、コンポーザー。
ギターボーカルの他に龍笛、三味線、二胡、バイオリンなども演奏する
マルチプレイヤー。
2013年「Fascinating Violence」でヨーロッパより全世界デビュー。
これまでに〈70000tons of Metal〉、〈Summer Breeze〉、〈Leyendas del rock〉などといった世界中のメタルフェスに日本人として初出演を果たす。
現在TriviumのMatthew氏プロデュースにより5枚目となるアルバムを制作中。またMatthew氏のソロプロジェクトIBARAKIの日本ツアーでギタリストを務めることが決まっている。
Ryoji Shinomoto Official Web
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