MARTY FRIEDMAN × マキシマムザ亮君(マキシマム ザ ホルモン) SPECIAL INTERVIEW

9月 9, 2022

Photo by Hirohisa Nakano / Text by Daishi Ato

マーティ・フリードマンが様々なギタリストを迎える対談シリーズ、今回登場するのはマキシマムザ亮君(マキシマム ザ ホルモン)。マーティは2009年に発表したソロアルバム『TOKYO JUKEBOX』でマキシマム ザ ホルモンの「爪爪爪」をカバーし、作品のオープニングナンバーに据えるほど彼らのサウンドに惚れ込んでいる。

今回はせっかくの機会ということで、マーティからマキシマムザ亮君へ数々の質問が投げかけられた。ホルモン楽曲のテンポチェンジの秘密、ギターソロの鉄則、歌のリズムとギターの関係性など、興味深いエピソードが次々と披露されている。約1万3000文字に及んだ両者のやり取りをぜひ楽しんでもらいたい。

 

― おふたりは久しぶりの対面だそうで

 

マキシマムザ亮君(以下:亮君) そうですね。マーティさんが「爪爪爪」のカバーをしてくれたときに雑誌で対談させてもらって。

 

マーティ・フリードマン(以下:マーティ) そうですね。

 

― 初対面はそれよりも前、アンドリューW.K.の来日公演(2006年11月)でホルモンがオープニングアクトとして出演したときだそうで。

 

亮君 そうです!

 

マーティ そのライブを僕は観ることができなかったんですけど、ライブ後にCDをもらって家で聴いたらライブが観られなかったことをすっごく後悔しました! 「観たかった! こんなにカッコいいバンドがいるんだ!」って。

 

亮君 その後ぐらいに、サマソニの事前番組とかでマーティさんがサマソニで観たいバンドにホルモンを挙げてくれてて。

 

― マーティさんは国内だけでなくて、海外のメディアに対しても日本のおすすめバンドとしてホルモンを必ず挙げていますよね。

 

マーティ いやあ、ホルモンは鉄板ですよ! 僕は日本のいろんな音楽が好きだけど、あまりにアイドル過ぎたりすると海外の人はあまり理解できないと思うんですよ。スルメ系のアーティストとかも多いし。でも、ホルモンは聴いたらすぐに盛り上がれるので、日本の音楽の入り口としてホルモンをおすすめしてます。

 

亮君 ありがとうございます! でもホルモンもだいぶアクの強い、万人受けしないバンドですよ(笑)。

 

マーティ ホルモンにはオールマイティな存在感がありますから。技術志向の音楽ファンはテクニックがないと聴かないし、残念ながら僕のファンにはそういう人が多いんですよ。でも、ホルモンの技術は信じられないぐらい最強じゃん? なのに、ポップ。なのに、どメタル。ここまでガチでオールマイティなのはホルモンしかないから、とりあえずホルモンを好きになってもらえさえすれば、日本の変な音楽をもっと好きになってくれるかもしれない。ホルモンはアメリカにはない要素を持っているバンドなんです。

 

― 具体的にはどういうところが?

 

マーティ センスだよね。テクニックがあるヘヴィ系のバンドの曲は絶対にホルモンみたいにポップな方向にはいかない。

 

亮君 うんうん、そうですね。

 

マーティ ホルモンみたいに超ポップなメロディとか、ポップなリリックとか、ポップなコンセプトは外国人には想像できない。それが技術以上においしいし、ホルモンの一番いいところだと思います。この意見はどう思いますか?

 

亮君 自分の性格にはいろんな要素があって、陰キャで人付き合いが苦手で社交性がない自分もいれば、その反対にうちのお姉ちゃん(ナヲ)みたいに明るく喋る日もあったり、その日によっていろんなキャラが出てくるんですよ。だから中学時代も、付き合う友達は音楽好きから、家に籠もってアニメやゲームばっかのオタクもいれば、スポーツ系、シンナー吸ってるヤンキーまで、いろんなジャンルの友達がいたので(笑)、自分の作る音楽も同じように、不良達が教えてくれたメタルやハードコアからオタクの友達が勧めてくれたアイドルまで全部自然に好きになって吸収してきたのかも。ホルモンの音楽性のルーツはそうやって培われていったと思います。

 

マーティ それは自由ですね。

 

亮君 だからホルモンっていうバンドは昔からどこのシーンに行っても浮いていたとこがありましたね。英詞の日本のメロコアが流行ってた頃にそういうバンドのシーンでライブやると、お客さんから「なにこの汚らしいうるさいバンド」って(笑)。

 

マーティ ああ~。

 

亮君 その次に日本語の青春パンクが流行ると、今度は「こいつら何歌ってるかわからない」って(笑)。かといってリンプ・ビズキットみたいなラップメタルのシーンに混ざると、オシャレでコワモテなバンドマンばっかりで、今度は僕らが萎縮して楽屋に入れず、廊下のはじっこで、ちぢこまって炊飯器で米炊いて四人で飯食べてました(笑)。どこのシーンにもなじめてなかったけど、どのシーンのバンドのことも全部リスペクトしていたし、どんな場所でもホルモンをブチかまして、全員倒したいって気持ちでした。

 

マーティ なるほど。ホルモンのサウンドは、それぞれのジャンルのおいしい部分を選んで絶妙なバランスを作ってるじゃないですか。しかも、それぞれのジャンルにはウザい部分がかなりあるけど、ホルモンはそういうところを全部避けて、いい成分だけを選んでますよね。例えば、どメタルな人はリンプ・ビズキットなんか嫌いだけど、リンプ・ビズキットにもいいところは間違いなくあるんですよ。

 

亮君 ウザい部分(笑)。わかります、早送りしたくなる部分と、「あ、ここは凄く好き」って刺さる部分。

 

マーティ そういういい部分を見つけてほかのジャンルのいい部分と混ぜたらマジックになりますよね。それについてはどうですか? 

 

亮君 悪い意味でいいとこどりなのかもしれない。たしかに、僕はシステム・オブ・ア・ダウンが好きだけど、「この部分の雰囲気はあんま好きじゃないな」「自分ならこうはやらないな」とか、いろいろあるんですよ。

 

マーティ 僕もまったく同じことをしますね。「ここはすごくいいんだけど、この周りの部分はいらない」っていうところがあったら、大好きな部分だけパクって自分のものにしちゃいます。

 

亮君 カレーライスには絶対にんじんと玉ねぎとじゃがいもが入ってないといけないってことはないじゃないですか。もうルーと肉だけでもいいし、全然違う食材を入れてもいいし、美味しくなるなら好きなものを入れていい。でも残念なラーメン屋ほどそれを失敗しちゃう、なんでも取り入れればいいってもんじゃない。流行ってるからってメニューに「タピオカもはじめました」とか。

 

マーティ あはは!

 

亮君 これはアリでこれはナシっていう線引きは自分で自由に決めつつも、本当に好きで自分が食べたいっていうものを、人にも本気で食べさせたいってのが根本にありますね。

 

マーティ 超わかる。

 

Marty Friedman X Maximum The Ryo Kun 2

 

― マーティさんは以前、ホルモンの「爪爪爪」のカバーをしましたけど、なぜこの曲だったんですか?

 

マーティ 『TOKYO JUKEBOX』(2009年5月リリース)というアルバムに入ってるんですけど、そもそもこれは日経エンタテインメントの企画だったんです。僕がやってた連載に「マーティ、この曲をカバーしたらどうですか?」っていう意見がけっこう届いて、レコード会社に「じゃあ、アルバムつくりましょう!」って言ったら、読者にアンケートをとって収録曲を決めることになったんです。その選択肢のなかに僕の好きな「爪爪爪」とPerfume「ポリリズム」も入れていたんですけど、もしアンケートでこの2曲が選ばれなかったとしても僕は無理やりやるつもりだったんです。そうしたら、そんなことしなくてもこの2曲がトップに選ばれました。

 

亮君 おお~。

 

マーティ このアルバムではどの曲も完全に破壊して、バラードだったものをどメタルにしたり、アップテンポなものをバラードにしたりしたんですけど、「爪爪爪」はオリジナルに近いバージョンで録りました。なぜかというと、「爪爪爪」はテンポがあまりによくて。僕はカバーするときにその曲をすごく分析するんですけど、「爪爪爪」を分析してわかったのはこの曲には違うテンポが10コぐらい詰まってるんですよ。

 

亮君 そうそう(笑)。

 

マーティ (BPMが)128、129、135とか大きな違いじゃなくて、微妙にふざけてるテンポチェンジが多い。だから、テンションをコントロールするためにひとつひとつのテンポを考えてるなら「こいつら、超天才!」って思ったんですよ。他の人はそういうことしないよね? 全曲そういうことをやってるんですか?

 

亮君 CDで聴いて耳が気持ちいいテンポと自分たちが演奏するときに体が気持ちいいテンポならどっちを取るかって話になって、「これはCDだからリスナーのことを優先させるべきだよね」となったんですけど、自分が演奏することを考えたときに「このテンポだとヘドバンするときにしっくりこない」と思って。それで結局、自分の気持ちいいところとCDを聴いてて気持ちいいところのバランスをとることにしました。一発録りでまず演奏し、自分達が演奏して自然と気持ちよく変わったテンポを分析して、「ここは2.5ぐらいテンポが下がったんだな、あそこはテンポが走り気味で上がったほうが気持ちいい」とか。

 

マーティ まずはテンポを決めずにやって、あとから分析するんですね。話を聞いて納得した。昔のレコーディングは自分たちの好きなテンポのまま、自分たちが気持ちいいように音を出すからリズムマシンもいらないじゃん? でも、現在のレコーディングのやり方だと先に全部テンポを書き出さないといけないでしょ? その作業ってけっこう負担ですよね。

 

亮君 そうなんですよ。なので、やっぱりクリック内で自分たちの演奏で微妙なニュアンスで速さや落ちる感じを出せたらいいなと思ってるので、そこまでテンポを極端に変えて録る事は最近はしてないですね。

 

マーティ 演奏していて一番気持ちがいいスイートスポットを最優先するというのは初めて聞きましたけど、それはとてもいいと思います。アナログ時代には僕もサビで(BPMを)1~2ぐらい上げるという技を使ってたし、ライブを想定して「このテンポで弾きたい」と思ったらそれでフィックスするというやり方はこの記事を読んでるバンドマンのためになると思いますよ。

 

― 以前、マーティさんはナヲさんのドラムのことも褒めてらっしゃいましたよね。

 

マーティ 僕は何よりもドラムに厳しいです。ギターよりベースよりドラムに厳しい。オカズの一つひとつまで信じられないほど厳しい。ダサいドラムはダサいから。ドラムさえこだわればそのバンドはもっとカッコよくなる。

 

― なるほど。

 

マーティ 「爪爪爪」のドラムは衝撃的でしたよ。僕のバージョンはドラムをそんなに変えてないんです。この曲で叩いたのはジェレミー・コルソンさんなんですけど、あいつはずっとスティーヴ・ヴァイで叩いてて、超パワーがあって技術も超ある人なのに、この曲のレコーディングではすごく苦労したんです。微妙なテンポチェンジを身につけるのが大変だったみたいで、このアルバムの中で一番難しいドラムでした。どんなふうにドラムはつくってるんですか?

 

亮君 うちのお姉ちゃんはエンタメ力はずば抜けているんですが、ミュージシャン的ドラマーではないんで(笑)、最近は曲を作るときや既存曲のアレンジを変えるときはベースの上ちゃんに僕のイメージを伝えて、リズムの原型を一緒に打ち込みで作ってますね。

 

マーティ 「爪爪爪」は?

 

亮君 自分の中で鳴ってるドラムのイメージをナヲに伝えて「ここはカオティックハードコアを匂わせたい」とか「このパートは悪のサンバ」など伝えて、色々叩いてもらいつつ、ホルモンぽいグルーヴを探していく感じですね。

 

マーティ ドラムのレコーディングは大変ですか?

 

亮君 うちは大変ですね。何度もテイク取り直しているとお腹減ってきてパワーも落ちちゃうし、逆にお腹いっぱいでも眠くなって動けなくなるので、「夕飯の出前届いてるから、冷めないうちにカッコいいの録って終わらせて飯にしよう!」って言った後が一番パワフルないいドラムを叩いてくれたりします(笑)。

 

マーティ ホルモンのドラムはほかのロックやメタルバンドと違うから目立ちますよね。技術があるのに攻撃的でハード。ほかの上手いドラマーはすごく柔らかく叩くじゃん。でも、それだと説得力がなくなる。

 

― 一方、亮君はマーティさんのことをどう見てきていたんでしょう?

 

亮君 やっぱり、メガデスですね。中学生の頃、よい子の友達と一緒に帰るときは表の道を通るんでけど、うちはチャリ通禁止だったんで、遅刻しそうなときは見つからないように奥の道を悪い友達とチャリで通りぬけて通学するときもあって、その道には必然的にヤンキーの先輩がたまっている暗い高架下の危ないゾーンがあって。そこで衝撃だったのが、橋の下の壁に大きくスプレーで<MEGADETH>って描いてあって。だから、僕の中でメガデスはバンドじゃなくて、そういう暴走族がいるのかと思ってました。

 

マーティ (笑)。

 

亮君 それで友達からメガデスのCDを借りたときに「あ、あの落書きのあれだ!」って。しかも、ジャケを見たら「地獄へのカウントダウン」って書いてあるじゃないですか。「怖い!」って。

 

マーティ あはは!

 

亮君 でも、CDプレイヤーで再生したら「うわ! カッコいい!」ってなりましたね。一生懸命コピーしてましたね、ギタースクラッチとか(笑)。僕、中学の頃はあまりメタルが好きじゃなくて、ギターがたくさん並んでいる楽器屋さんも苦手なんですよ。

 

マーティ 僕もそうなんですよ。楽器屋には行かない。

 

亮君 本当ですか!?

 

マーティ 正直言って、楽器自体にそんなに興味がないんですよ。楽器は道具ですから、道具としていいものだったら僕は超満足なんですよ。でも、世の中にはいい道具がびっくりするほど少ない。特に僕らみたいにガチで演奏してる人たちにとって楽器は本当に丈夫じゃないといけない。だから、僕にとって大事なのはデザインとか木の種類とかフレットの鉄の種類とかじゃなくて、自分のやりたいことをやらせてくれるかどうか。チューニングがずっと狂わないとか、スイッチが落ちないとか、道具として基本的なことがしっかりしてればいい。

 

亮君 かっこいい…!

 

Marty Friedman X Maximum The Ryo Kun

 

― マーティさんは今度Jacksonから発売される<Jackson American Series Soloist SL3>を弾いてみてどうでしたか?

 

マーティ 重さがあってしっかりしてますね。僕のモデルはこれよりもう少し重いですけど。

 

― これはアメリカ製ですけどカスタムショップではなくて、この1本のために新たに生産ラインを立ち上げた<アメリカンシリーズ>です。日本を含めてグローバルに打ち出していくための第一弾で、スペックはシンプルですけどいろんな音が出せるとか。これまでアメリカ製のJacksonはカスタムショップで50~60万して、作るのに2、3年もかかっていたんですけど、もっと手に取りやすい形で弾いてもらえるようにしたモデルです。

 

マーティ これはいいと思います。亮君は弾きましたか?

 

亮君 弾きました。僕、「俺はギターが弾きたいんじゃない、ゼロを弾きたいんだ」っていう持論があって、ゼロをミュートしてズクズク弾くのが一番ゾクゾクするんですよね。ホルモンの曲はB級ラモーンズパンクだと思って作曲しているので、基本的には全部3コードなんですよ。その中にちょっとしたエッセンスで自分の好きなジャンルを入れたり、「こういうジャンルが好きな人は絶対これは嫌いでしょ」っていう相反するものを合体させるので、パワーコードで歌いながら弾きやすいのが好きですね。なので、Jacksonはもっと単音弾きとかするのに向いてるのかなって。

 

マーティ 僕はどんなギターに対しても「こっちのほうが弾きやすい」って思ったことはないですけど、このギターはフレットマーカーが大きくてありがたいですね。僕は目を閉じて弾くことが多くて大事なときだけ一瞬目を開けるので、フレットマーカーがわかりやすいとありがたい。とてもしっかりしてる楽器ですね。いくら弦を揺らしても正しく反応してくれる気がする。

 

― 亮君はこの<Jackson American Series Soloist SL3>が初Jacksonになりますか?

 

亮君 初のJacksonです。

 

― 亮君のJacksonに対するイメージは?

 

亮君 中学3年生の頃に買ってた「バンドやろうぜ」の広告ページによくJacksonが載ってたので、テクニック型のハードなビジュアルバンドが持ってるイメージですね(笑)。あとは長髪のメタルお兄さん。

 

マーティ なぜ日本でビジュアル系のバンドがJacksonを弾いてるかというと、ビジュアル系バンドはけっこうメタル寄りのサウンドだし、ほかのメーカーと比べるとJacksonギターは形が一番ビジュアル系向きなんですよ。形が尖ってたり、珍しいフレットマーカーとかヘッドストックがあったりして、ビジュアル系に似合うんですよ。でも、もっとたくさんの日本人に知ってもらいたいですね。

 

― そうですね。

 

マーティ Jacksonって日本ではそんなに大きくはないんです。海外だとメタルギターといえばJackson一直線だし、メタル専門ギターのトップ。もちろん、メタルだけではないんですけど、メタルを弾こうとしたらJacksonは鉄板中の鉄板。だけど僕はJacksonでどんなジャンルでも弾きます。僕は最終的には音とピッチしか見てないので、そういう意味ではラモーンズは亮君との共通点だと思う。だから僕はホルモンのファンになったのかも。

 

亮君 ああ、うれしい。

 

マーティ 最近は全然弾いてないけど、今でもラモーンズはリハ無しでも全曲弾けると思います。

 

亮君 すげえ(笑)。

 

マーティ それぐらいラモーンズで育ったし、ラモーンズのおかげでメロディセンスが身についた気がする。攻撃的なコードプレイってラモーンズの前にはなかったんですよ。

 

― 亮君の音楽の目覚めはいつですか?

 

亮君 ギターを始める前から鼻歌で作曲するのが好きだったんですよ。兄弟喧嘩のときに弟を馬鹿にするような憎たらしいメロディをつけたくて。あと、家にフォークギターと歌本があったので、その歌詞だけを見ながらどんなメロディかを自分で想像して歌ってました。だからサザンオールスターズの曲も僕が想像で歌っていたサビと全然違って。

 

マーティ あはは!

 

亮君 本物を聴いたときに「こんな風に歌詞がメロディにのるんだ! すごいな!」って。そんなふうにして歌詞をパッと見て「なにこれ、どんな歌なんだろう? 自分ならこんな感じかな?」って想像してメロディを歌うのが子供のときから好きだったんですよ。そのうちナヲが高校で軽音部に入ってドラムをやるようになって、スピーカー付きのミニギターをメンバーから借りてきて、スコアを見ながらユニコーンのギターコピーをしていたんですよ。それを見ていて僕もユニコーンに興味が湧いて、そこがロックとの初めての出会い。で、ユニコーンと同時にその時期のバンド、ROLLYさんのすかんちが大好きになって。ローリー寺西(当時の名称)が神様でした。ローリーが手のひらを前に突き出しているポーズのポスターを部屋に貼って、毎日、そこに僕も手のひらを合わせてから学校行ってました(笑)。

 

― そうだったんですね。

 

亮君 中学生の時はすかんちが一番好きで。だから、ユニコーンとかすかんちがレッド・ツェッペリン、クイーン、ディープ・パープル、キッス、ザ・フーみたいな70年代のバンドについていつも語ってたんで、まずはユニコーンのメンバーが着てるTシャツのバンドのCDを全部買ってみようと、そこから70年代ロックにハマっていって、「俺もギター弾きたい!」と思うようになりました。

 

マーティ とても日本的な話ですね。というのも、日本の音楽シーンを見ていて気づいたのは、日本人は日本の音楽をよく聴くんですね。だから、ROLLYさんたちがきっかけにならなければ、たぶん亮君が洋楽の存在を知るのはもっと遅かったと思うんですよ。そういう意味でも邦楽ってデカいですよ。日本に来ると邦楽の存在感のデカさをすごく感じます。だから日本人は洋楽がなくても音楽的にはそんなに困らないんですよ。いろんなスタイルが豊富にあって、ルール無用のジャンルの融合が可能な音楽シーンだから、僕はミュージシャンとして、アーティストとして、絶対に邦楽には飽きないですね。

 

― なるほど。

 

マーティ 欧米はジャンルのルールがとても厳しい。メタルは好きだけどニューメタルは嫌い、パンクは80年代と現代をミックスしちゃダメ、みたいな意識があまりにも強くて、新しいものがあまりない。最近の日本の音楽はとても日本的ですね。歌謡曲も未来的。自由の塊って感じで好きです。それが僕のミュージシャンとしての気持ちですね。

 

― 自由な音楽が好きなマーティさんからすると、ホルモンの音楽なんて本当にツボじゃないですか。

 

マーティ めちゃめちゃツボですね。だって、歌謡曲のメロディがあるじゃないですか。

 

亮君 メロディはそうですね。

 

マーティ それに加えて、ホルモンの音楽には洋楽のガチでヘヴィな要素があるところが違うんです。日本のヘヴィ系のバンドって実はそんなにガチでヘヴィではなくて、ヘヴィメタル風で頑張ってるポップシンガーやアイドルもいますけど、そういう人たちの音楽は中途半端で終わることが多い。でも、ホルモンは洋楽のヘヴィ系の音楽よりもさらにヘヴィでハード。だから僕はホルモンが好きなんです。歌謡曲のルーツを守りながら、ヘヴィさでも向こうに勝ってる。

 

亮君 いやいやとんでもないです。

 

― ホルモンは最近、フランスの大型メタルフェスHELLFESTを含めたヨーロッパツアーに行ってましたよね。

 

マーティ あ、そうなんですか? どうでしたか?

 

亮君 今回コロナのせいで2年延期されて、以前HELLFEST に出たときは7、8年前でした。実は、僕は海外進出には全く興味がなくて。自分の作った曲が日本の人にすら完璧に伝わらなくて、もやもやしてるのに、海外の人に僕の歌詞とか世界観がわかるのかなってずっと半信半疑で。英語全く喋れないので言葉も通じないし、僕の性格や考えている事、歌詞に込めた想いなんてのもまったく理解しづらい、でも純粋に音楽だけでホルモンの曲をすごく楽しんでくれて、バンドを愛してくれて、たぶん言葉の意味分かってないけど一緒に歌ってくれたり。それって贅沢すぎるほど幸せな事だし、だからそもそも日本のファンにだって本当は誰にも伝わってなくてもみんな目の前で自分の音楽で喜んでくれてるし、それならもういいや、俺も楽しんじゃえって、そんな気持ちで最近は海外も日本もライブは楽しんでますね。

 

マーティ なるほど。

 

亮君 でも僕、いまだに自分の作る音楽とかプレイに対して白帯で挑んでいることにプライドを持ってはいるんですが、劣等感もすごいので、HELLFESTのような世界の黒帯中の黒帯バンドが集まってるフェスなんかに、うちらが出させてもらえてるのがもうなんかおこがましくて。

 

マーティ もっと自信を持てばいいと思いますよ! 歌詞が伝わらないこと以上にみんなホルモンのことを新鮮に感じてるんですよ。ところで、コロナ関係はどうでしたか?

 

亮君 ヨーロッパはどこも「え? コロナって終わってたんだ」って錯覚してしまうぐらいの街の雰囲気でしたね。ライブハウスの客席も、声出しはもちろんモッシュ/ダイブも全然あり。スペインでは客が勝手に床に座りだして、バイキングメタルの舟漕ぎモッシュはじめたり(笑)。あのムードは感動しちゃいましたね。自分がギターでイントロ弾いて「うおおおおお!」って客席から歓声が上がる瞬間は「これこれ!!」ってやっぱり久々に興奮しましたね。

 

― HELLFEST自体はどうでしたか?

 

亮君 ものすごいメンツでしたね。もちろんどこもかしこも轟音ギター。重厚なドラムにベースにデス声。まさに地獄。でも客は全員天国にいるような笑顔(笑)。アンダーグラウンドなステージもいっぱいあって、僕はそういうハードコアなシーンもすごく好みなのでそっちのステージばっか観に行ってたんですけど、スラムなモッシュゾーンはやっぱり最高でしたね。そういうステージ行くと海外のバンドマンが結構僕らのこと知ってくれてるんですよ。Jesus Pieceって僕も好きなバンドのボーカルがいて、「ハイスクール時代にホルモン聴いてたよ!」って話しかけてくれたり。

 

マーティ へぇ~。

 

亮君 ライブするときってやっぱり好きなバンドのTシャツを着るんですよ、お守りみたいに力をもらえるというか。本番前も同じように自分の好きな洋楽のバンドの曲を聴いてテンションあげるんですけど、HELLFESTは自分がいつも着ているようなTシャツのバンドや、自分がよく聴いてる曲、その本人らが対バンにいるっていう不思議な状況。うちらの次に出演するのがKORNだったんですが、「よーし!KORNに負けないライブするぞ!!」ってKORNを聴くのもなんか変じゃないですか(笑)。だから、海外では天童よしみや松田聖子聴いてテンション上げてますね。

 

マーティ (手を叩きながら)あっはっはっ! 面白すぎる。

 

亮君 でも、HELLFESTはやっぱり自分自身が客としてキッズになれるとこがめちゃくちゃ刺激になりましたね。元パンテラのフィリップ・アンセルモの声をステージの袖で間近で聴けるとか、KORNのライブ中も客席のモッシュゾーンで見てたんですけど、クラウドサーフする客の発射台役久々にやりました(笑)。

 

― コロナ前と同じノリのお客さんを観るのも刺激になりますね。

ホルモンは今回、ヨーロッパツアーに出て日本とのシーンの違いみたいなものは感じましたか?

 

亮君 僕は思春期の数年間で目まぐるしくいろんな音楽とライブの現場のカルチャーに実際に触れたことが、今の僕のホルモンのすべてを作っていると思っていて、今はコロナが始まって3年近く経ちますけど、この間に思春期を過ごした若者は音楽の現場がすべてネットの中にしかなく、本来のライブを体験出来ていない。スマホで見れるものがすべてリアルと錯覚しちゃっているのかもしれなくて。

7年前くらいに、志村けんさんのコントの舞台をメンバーで観に行った事があるんですが、僕らが子供の頃テレビで見てた往年のコントを生で見れて超感動したんです。でも、なにかが物足りなくて。それは子供たちの馬鹿笑いと「志村― うしろー!!」のあの声。もちろん客席はもりあがっているんですが、子供の客はほぼいなくて、全て大人の客たちによる歓喜と賞賛の品の良い拍手。僕はやっぱり志村のコントには鼻水垂らした子供たちの本気の馬鹿笑いがあってこそだと思うんですよ。ドラえもんやクレヨンしんちゃんの映画だって、家で一人でテレビで見るより、ちいさい子供たちで満席になった映画館で見ると本当に全然違うんです。子供たちの生の笑い声や、感動のシーンの時どこからかグスグス泣いて鼻水すする音が聞こえてくる瞬間って、映画をさらに良いものにブーストしてくれるんです。現場でしか体験できない。これって、ロックのライブで言うオーディエンスの声出しやモッシュも同じだと思うんですよね。うるさい、迷惑、静かに映画を見たいという人もいると思いますが、僕は観客のリアクション含めて一つのカルチャーだと思っているんで、海外はコロナになってもちゃんと音楽の現場のムードが僕の好きなエクストリームを変わらず保っている……日本でもヒップホップシーンのクラブや小さいライブハウスではもう海外と変わらない状況だったりもするんですがね。

 

― では、最後に何か言い残したことはありますか?

 

亮君 でも最後に、コロナになって悪いことじゃないこともあって。それはYouTubeで「ROCK FUJIYAMA」を始めてくれたことですね(笑)。

 

マーティ ああ、ありがとうございます。亮君もぜひ参加してください!

 

亮君 いや~、緊張しちゃいます!

 

マーティ 本当にふざけてる時間だから、絶対楽しんでもらえるはずです。スタッフのみんなもマニアックだからどんな話にも対応してくれると思う! 

 

 

 


マーティ・フリードマン

アメリカでの音楽活動を経て、2004年に活動の拠点を日本・東京へと移す。 2005年からテレビ東京で放送された伝説のロックバラエティ番組『ヘビメタさん』にレギュラー出演し、日本国内のヘヴィメタルファンだけではなくYouTubeを通じて世界のヘヴィメタルファンを驚かせた。続編レギュラー番組『ROCK FUJIYAMA』は世界各国で話題の番組となる。 その後、テレビ番組に多数出演。雑誌や新聞でも連載を持ち、初の執筆書籍『い~じゃん! J-POP だから僕は日本にやって来た』はベストセラーに。2008年には映画『グーグーだって猫である』『デトロイト・メタル・シティ』にも出演。ギタリスト、作曲家、プロデューサーだけにとどまらず、テレビ、ラジオ、CM、映画などさまざまな分野で活躍している。

ROCK FUJIYAMAチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCLmF8nkHDUap8ztsGnROWqg

Marty Friedman Official YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC8p0ZqjT7f_zZiS-py5w-WQ

Marty Friedman Official Web
http://martyfan.com/

 

マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)

マキシマム ザ ホルモンの全ての楽曲、歌詞の制作、リリース作品やグッズの全監修、監督をマキシマムザ亮君が行っている。
マキシマム ザ ホルモンは1998年八王子にて結成。
日本語を独自の語感表現で操り、意味不明に見えて実は奥深いメッセージ性を持つ強烈な歌詞と、激しいラウドロックにPOPなメロディを融合させたサウンドスタイルが特徴で、マキシマムザ亮君 (歌と6弦と弟)、ダイスケはん (キャーキャーうるさい方)、上ちゃん (4弦)、ナヲ (ドラムと女声と姉)の4人からなるロックバンド。
2013年発売のアルバム「予襲復讐」はオリコンアルバムチャート3週連続1位を獲得し40万枚を超えるセールスを記録。累計40万本突破の映像作品「D対D」シリーズ最新作となる「Dhurha Vs Dhurha~ ヅラ対ヅラ~」発売中。
国内の音楽フェスにおいては最大の動員を誇り、海外での大型フェス出演やニューヨークをはじめ、ヨーロッパ・南米各地での単独公演をソールドアウトさせるなど国内外からの評価も高い。
2022年6月にはフランス最大のメタルフェス「HELLFEST2022」のメインステージ出演を含 む、4都市5公演のヨーロッパツアーを開催した。

マキシマム ザ ホルモン Official Web
http://www.55mth.com/

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