Scott Ian SPECIAL INTERVIEW (後編)

4月 19, 2024

 

スコット・イアン久々のロングインタビュー後編は、引き続きミスター・バングルの話からはじまる。アルバム『Raging Wrath of the Easter Bunny』のレコーディング裏話や、アンスラックスとミスター・バングルが同じフェスに、しかも同日に出演することになったことについて聞いたあと、日本のメタルシーンについて彼の見解をうかがった。演者の口から語られる欧米のライブ事情、チケット事情も非常に興味深いのでぜひ最後まで読んでみてほしい。

 

メタリカやアイアン・メイデン、アンスラックスだっていい、メタルを初めて聴いて「すごくいい!」って好きになる13歳は今の日本にもいると思うんだ

 

ミスター・バングルのアルバムRaging Wrath of the Easter Bunny』のレコーディングはいかがでしたか 10代の頃に書かれた曲を録音するというのは大変な作業だったのでは

ああ。レコーディングはほぼライヴ・レコーディングで、4〜5ヶ月かけて必死に曲を覚えたよ。演奏自体は難しいわけじゃないけど、とにかく曲の構成が難解なんだ。ものすごく速い曲もあったけど、速さやスタミナは練習でどうにでもなる。だけど、曲の構成は違う。いわゆるヴァース〜コーラス〜ヴァースという普通の構成ではないから、アレンジを覚えるだけでも大変なんだ。しかもほとんどが長い曲だろ? 「Sudden Death」なんて7分半近い上に、繰り返しがほとんどない。リフ、リフ、リフとすべて違うリフが最後まで続く。1曲で94回くらい違うことを弾いてるんだぜ! オリジナル・デモでは細かいパートがまったく聴き取れないから、トレイがドラムマシンとギターだけの新しいデモを作ってくれたんだ。何年も前にヨーロッパのフェスで Fantomas と一緒になったことがあって終演後に、(Fantomasの)バズ・オズボーンに聞いたんだ。「どうやって曲を覚えてるんだ?」って。すると彼は、最初の1分を覚えて何度も弾いて、次の1分を覚えて弾けるようになるまで弾く、それを繰り返すんだと言ったんだ。で、バズの言葉にならって「Sudden Death」に取り掛かってみたら本当にうまくいってさ。あのアドバイスには本当に助けられた。そんなわけで、かなりタイトになるまでリハを重ねたんだ。実際、リハに入る前にもトレイとトレヴァーが2日間うちに来てくれて、ギター2本とベースだけでギターパートを確認して、よりタイトになったところでバンド全員で4日間リハをしたんだ。そこでさらにタイトになったところでライヴをやり、またさらにタイトになった状態でレコーディングに臨んだ。だからスタジオに入る頃には準備万端なんてもんじゃなかったよ。

 

― レコーディングはどうでしたか?

ほとんどの曲でドラム、ベース、ギターは一緒にライヴ録りした。これだけ速い曲ばかりのアルバムでは普通やらないことだけど、実際全員で「いっせーのーせ!」でやってるんだよ。だからこそこの作品には最高のエネルギーがあるんだと思う。

 

S.O.D.のカバー面白かったです。

ああ、明日のライヴ(インタビューは東京公演の前日に行われた)で「Speak Japanese or Die」をやろうってマイクに言ってるんだ。どうなるか楽しみにしてて。あとで、日本語で“Speak Japanese or die”って言ってよ。それを録音してマイクに覚えさせるから。

 

ミスター・バングルでS.O.D.の曲をやるのはどんな気分ですか?

楽しいよ! それにS.O.D.はもうツアーをやらないから、オーディエンスにS.O.D.の曲を聴いてもらえるのは嬉しい。ほとんどのファンがS.O.D.のライヴは見たことがないだろうし、それにすごく盛り上がるんだ。「Speak Spanish or Die」をアメリカでやると腹を立てる奴らがいっぱいいるから笑えるよ。右翼の奴らとか、人種差別主義者とか。そういう連中を怒らせられたら最高じゃないか!

 

― アンスラックスとミスター・バングル、二つのバンドの活動を両立させるのは大変ですか?

それはもう少ししたら教えるよ。というのも、毎年オハイオでやってる〈Sonic Temple〉という大きなフェスが5月にあるんだけど、同じ日にミスター・バングルとアンスラックスが出るんだ。フロリダ州の〈Welcome to Rockville〉でも両バンド出るけど、そっちはアンスラックスが木曜、ミスター・バングルが金曜だから大丈夫。でもオハイオではアンスラックスが4時頃にメインステージに出て、ミスター・バングルが8時頃に小さいステージに出る。2〜3時間ぐらい間が空いているし、アンスラックスは45分くらいでミスター・バングルは50分くらいの短いセットだから大丈夫なはず。ミスター・バングルではアンスラックスみたいには動き回らないしね。ていうか、あの速さでピッキングをするから動き回るどころじゃないんだよ。せいぜいヘドバンをするぐらい。でも、もし2バンド続けて出るとなったら大変だろうな。まあ、どうなるか楽しみにしてるよ。

 

Scott Ian Special 2024 5

 

それでも大変そうですね。最後に、日本のメタルシーンについて意見を聞かせてください。今、日本は空前の来日ラッシュを迎えているんですが、メタルファンは国内のメタルリスナーがなかなか増えないことを嘆いています。定期的に開催される大型メタルフェスも今はありません。

ないのか? 〈LOUDPARK〉は?

 

毎年やるフェスではなくなってしまったんです。

もっとオルタナティヴなやつはどうだ? SUMMER SONICとかFUJI ROCKとか。

 

それはあります。

でもメタルフェスがなくなったんだな。困ったもんだ。

 

円安もあってチケット代が高くなっていますし。

それは日本に限らず、世界中どこでもそうだよ。しかも音楽に限った話じゃない。日本の状況はわからないけど、アメリカではコロナ後に失業者が増えて、食品、ガス、あらゆるものの単価が上がった。そうしないと企業がやっていけなかったからだ。ところがインフレから抜け出した今も物価は高いまま。あらゆるものが影響をうけている。

 

― 具体的には?

コロナ前の2018、2019年頃なら、1日平均1000ドル(約15万円)でツアーバスを運転手とガソリン代込みで借りられたんだ。ところが、コロナ後は2倍の2000ドル(約30万円)になった。ヨーロッパはさらに酷くて3倍の3000ドル(約45万円)。多くのバンドがヨーロッパツアーをキャンセルしてるのはそのせいなんだ。そういったわけで、コロナ前には45〜50ユーロだったチケット代も、採算を合わせるには125ユーロ(2万円)にしなけりゃならない。そんな高額にできるわけないだろ? 

 

― あまりに高すぎますね。

だから俺たちも2年前のヨーロッパツアーはキャンセルした。これは、チケット代を含むすべての物価が上がったのに、庶民の月給が上がってないのが問題なんだよ。ミスター・バングルのオーストラリア・ツアーのチケットが売りに出されたときもチケット代をチェックしたら170豪ドル(約1万7千円)で、「そんなにクソ高いのかよ!」と思ったよ。この前、LAで妻と一緒にマドンナを観に行ったんだけど、チケットの定価が600ドル(約9万円)だった。ブローカーから買ったらさらに高い。狂ってるよ。「みんなどうやってチケット買ってるんだ?」と思う。頭に来る話だ。

 

― そうですね。

しかも、チケット代が上がったからといって、バンドの収入には必ずしも反映されていないんだ。それが大きな問題。この状況に対して唯一何かできるとしたら、みんながライヴをボイコットすることだよね。そうすればプロモーターは値段を下げるしかない。でもそうはならない。ビッグなアーティストがツアーをやるとなれば、みんなチケットを買うだろう? マドンナもそうだけど、アリーナやスタジアム・クラスのバンドを観に行くのは金を持ってる連中だ。というか、スタジアムが埋められるほどビッグなバンドの客はそれだけのチケット代が払えるんだよ。20ドル(約3千円)のチケット代しかチャージできないような小さな会場でやってるハードコアバンドやパンクバンドじゃない。Tシャツもとんでもなく高くなっててびっくりだよ!

 

そういった状況がありつつ、海外ではメタルフェスが毎年開催されていますよね。テイラー・スウィフトを観に行くファンでもメタリカを観に行くようなアメリカと日本では違うんですよね。

日本の13歳がヘヴィメタルに触れるにはどうしたらいい? 兄貴とかから? 両親?

 

もしくは、自分の好きなアーティストがリスペクトしていることをきっかけにヘヴィメタル・バンドを知るとか。

メタリカやアイアン・メイデン、アンスラックスだっていい、メタルを初めて聴いて「すごくいい!」って好きになる13歳は今の日本にもいると思うんだ。でも、メタルを流すテレビもラジオもないんだろ? そうなると知りようがないじゃないか。

 

でも、Bring Me The Horizon がキュレートした〈NEX_FEST〉の東京公演はソールドアウトでした。若いファンも多くて、そこは希望があるかなと。

COOL! でも、もう少し大人にならないとメタルを聴くようにはならないのかな? 

 

日本ではBABYMETAL経由で好きになるというパターンもあるんじゃないかと思います。

彼女たちは日本でビッグなのか? だったら、テイラー・スウィフトの前座にBABYMETALが出ればいい。そうすればテイラー・スウィフト・ファン全員がBABYMETALを観ることになる。そうやって変えていかなきゃ。それか、今度テイラー・スウィフトが来日するときは天皇直々に言わせるんだ。「BABYMETALが前座じゃなければ入国を許さない。若いキッズにヘヴィメタルのことを知ってもらいたいからだ」ってね。

 

― あはは!

まあ、それは冗談として、物事はそうやって変えていくんだよ。それにしても、テイラー・スウィフトが世界で最も影響力のあるミュージシャンになるなんて、誰が想像しただろう。もし彼女が公に「私はジョー・バイデンに投票する。だから、あなたたちもそうして」と言って、2千万人の若者がそれに従ったらトランプは勝てない。それくらいの影響力が今の彼女にはあるんだ。要は、音楽が多くの人にとってこんなにも重要なものであることはすごくいいと思う。音楽業界にとってもいいことだし、重要なことだ。彼女のライヴを観た若い子供たちは家に帰って「ママ、ギターが弾きたい」「ママ、歌いたい」と言うかもしれないからね。

 

最後に、久しぶりの日本はどうですか?

最高だよ。最後に来たのはコロナ前だから、2018年だったかな。戻って来られてとても嬉しい。普段は、着いた初日の夜は早く目が覚めてしまってそのあと眠れなくなるんだけど、昨夜はぐっすり眠れたから今日はすごく気分がいい。2020年〜2021年初めにZoomでアンスラックスのメンバーたちと「いつになったらまたライヴがやれるようになるんだ!?」って話し合ってたぐらい、先のことは何もわからなかった。だから、2021年にショーでステージに立った瞬間、涙が出たんだ。今回の日本もまるで初めて訪れる国のようだよ。コロナ後に訪れた国はどこもまるで初めて来たような気分になった。コロナ中はもう二度と日本にも、ヨーロッパにも行けない、飛行機にも乗れないんじゃないかと思ってたからね。それぐらい異常な状況だったから変なことをいろいろ考えてしまってた。だから、こうして日本にいられることを本当に嬉しく思ってる。

 

― 今回の滞在中、コンサート以外で何かする予定はありますか?

特にないかな。友人は大勢いるから、数年ぶりに会える友達と会って、美味しいものを食べにいくくらい。東京、大阪のあと、ニュージーランド、オーストラリアと続くから時間がないんだ。でも来年にはアンスラックスで戻ってくると思う。新作をリリースしたあとにね。そのときには早めに来て家族と観光をしようと思ってる。息子が初めての日本をどうしても体験したいって言っているんだよ。

 

Scott Ian Special 2024 3

(左)AMERICAN SERIES VIRTUOSO, STREAKED EBONY FINGERBOARD, MYSTIC BLUE

(右)X SERIES SIGNATURE SCOTT IAN KING V™

 


 

スコット・イアン

1963年12月31日、米ニューヨーク生まれ。スラッシュ・メタル・バンド、アンスラックスの結成メンバー兼ギタリストとして40年活動を続けている。またクロスオーバー・スラッシュの最重要バンド、Stormtroopers of Death(S.O.D.)の中心人物であり、フォール・アウト・ボーイのメンバーと結成したザ・ダムド・シングスのギタリストでもある。2020年にはミスター・バングルの21年ぶりのアルバムにギタリストとして参加した。

Scott Ian Official Web