Phil Collen Special Interview(後編)

10月 28, 2021

Photo by Helen L. Collen
Text by Daishi Ato / Translation by Kyoko Maruyama

ギターについての話を中心に語ってもらった前編に続き、後編ではフィル、そしてデフ・レパードの「今」にスポットを当てて話を聞いた。コロナ禍をいかに生き抜くか、という問いに彼はミュージシャンらしい表現で回答してくれた。個人的には、デフ・レパードという偉大なバンドのギタリストに「バンドをすることの魅力とは何か」「名曲はどうやって名曲たりえるのか」ということを聞けたのがとてもうれしかった。

 

― 現在、みなさんは曲作りをしていると聞きました。ニューアルバムのためなのかどうかはわからないのですが。

 

いつかそうなればいいなと思ってるよ。ツアーが来年には始められる予定なので、その時にアルバムがあればいいなとは思っているけど。でもそれにかかわらず、曲は常に書いているし、今日も書いていたよ。ジョーと僕はいつも曲を書き、レコーディングをしている。ここはリビングルーム兼スタジオなんだ。ほら(とマイクを見せて)ここでデモを取り、それがマスターになる。デフ・レパードは常にレコーディングをしていることで知られているけど、ここ1年半、曲作りという意味では実に充実した時間が送れたよ。いつ出るのかは未定だけど、常に取り掛かっていることは間違いない。

 

― ツアーに出る頃にはアルバムもできているだろう、ということですね。

 

それすらわからないよ。『ヒステリア』の時がそうで、リリースが予定より遅れていてみんなから「アルバムはいつ出るんだ?」と言われ、「来年出るよ」と言い続けて、結局出たのは3年後だった(笑)。

 

― 「もはやアルバムは重要ではない」というジョーの発言も目にしましたが……。

 

彼はそう思うのかもしれないし、音楽業界の基準で言っても確かにそうなのかもしれない。もはや人はレコードを買わない。ダウンロードすらせず、ストリーミングで聴いて、レコードを買うのはごく一部だ。僕自身はアナログ盤が好きなんだけど、その僕ですら2カ月は買っていない。スマホをスピーカーに繋いで聴いてしまっている。残念なことにアルバムのコンセプトそのものはかつてとは違うものになってしまっているけど、それでも音楽を作り続けるのは大事なことだと思っているよ。ツアーも、かつては新譜のプロモーションのためにやってたからね。テクノロジーが変われば全てが変わる。それでもアーティストがコンスタントに新しい音楽を作り続けることは重要だと思うよ。

 

― ソロ活動はいかがですか? 先日、「Quadrant 4」の映像を見ましたが、他にも色々とあると聞きました。

 

数年前、G3ツアー(ジョー・サトリアーニ、ジョン・ペトルーシ)に出た時、僕のバンドであるDelta Deepを連れて行ってあの曲をカバーしたんだ。ビリー・コブハムが1973年に発表した曲だけど、昔から好きな曲で。フォレスト・ロビンソンとクレッグ・マーティーニとはレコーディングも個別に行って、ビデオ撮影もそれにシンクロさせる形で個別にやったんだよ。僕のパートは妻のヘレンが家の居間で撮ってくれた。そうやって常に何かインスピレーションを刺激されることをやるのが大切だと思う。ソロ・アルバムを出したいとも思っていて、曲は十分にあるんだよ。Delta Deepの曲もあるし、クールなギター・インストゥルメンタルの曲もある。でも、これもバンドの新作同様、何も決めてはいない。まだアイデアというだけだから、もしかしたらいずれ形になるかもしれないね。

 

― コロナ禍のいま、音楽シーン、メタルシーンはこの状況にどう立ち向かうべきだと思いますか?

 

コロナに関しては刻々と状況が変わっているよね。ワクチン接種が終わったと思ったら、デルタ株などの新しい変異株が出てきて状況がさらに悪化している。つまり、人間も状況に応じて変化しなきゃならないということ。パンデミックというのはそういうものだから。100年前に起きた時もそうだった。コロナに慣れ、こちらも変わっていかなければならない。

 

― そうですね。

 

音楽もそうしていかなければならないんだ。これは音楽業界に限らず、人生すべてに当てはまることで、人だって歳を取れば身体は変わるから、それに応じて変えていかなきゃならない。音楽業界とコロナの関係も同じで、アドリブで対応できるようにならなきゃダメで、どれだけプランA、プランBと準備してもうまくいかず、プランKが必要になるかもしれない。繰り返しになるけど、ツアーもそうだよ。元々、モトリー・クルーと一緒にプレスリリースを用意して「よし、リハーサルを始めるぞ」とやる気満々になっていたら「コロナですべてキャンセルになりました」と言われ、次の年にもまた同じことになった。すでにツアーをやってるバンドもいるけど、僕らはまだだと思っている。何事も即興でインプロヴァイズしないと。でも、そんな状況でありながらも、逆に素晴らしい音楽は生まれているんだよね。さっきも話したチャカ・カーンとのNOKIAシアターでの無観客ライブのバンドは最高だったし、他にもチャリティで、LAのスタジオでスラッシュと初めて一緒にやったんだ。ベースはロバート・デレオ、ドラムはフォレスト・ロビンソ、僕がヴォーカルで、ジミヘンの「Fire」をカバーしたんだ。スラッシュとは初めてだったけど最高だったよ。こんな時じゃなきゃ一緒にやるチャンスはなかったかもしれない。そう考えるとコロナ禍にはクールなこともいっぱい起きた。もちろん、友人を亡くしたり、ひどいこともいっぱいあったけどね。とにかく、常に状況と共に動き、変化するってことだと思う。

 

― これだけ長い年月にわたって、デフ・レパードが一線で活躍できている理由はなんだと思いますか?

 

育った環境から、僕らには幼い頃からワーキングクラスのメンタリティがあって、それが基本になっているんだよ。僕らに起こったことは何もかもが予想をはるかに超えていたし、どんな時も僕らは必死で働いた。むしろ喜んでそうしたんだ。ツアーに出てもヴォーカルの練習をしっかりやり、ウォームアップは欠かさなかった。そうするのを楽しんでいたし、やればやった分バンドとしてもプレイヤーとしても上達するのが面白くてたまらなかったんだ。だから昔の曲でも好きな曲が多いんだ。再びライブで演奏できるようになったとき、こんなふうにしたらいいんじゃないかというアイデアもある。昔の曲に飽き飽きしてる連中もいるだろうけど、僕らは違う。誇らしい気持ちになるよ。特にオーディエンスからの反応を見るとね。「飽きてしまわないかい?」と聞かれることがあるけど、「とんでもない! 2万人、5万人のファンが大盛り上がりしてくれるんだぜ!?」と思う。疲れることも古くなることも決してない。ほんのガキだった頃からミュージシャンを目指してきて、63歳の今もこのレベルで続けられているのは、信じられない気分だよ。

 

― これまでの音楽人生でフィルさんがもっとも誇らしく感じた出来事はなんですか?

 

いくつかあるけど、ひとつはガールがレコード契約を結んで昼の仕事をしなくても済むようになった時だ。ロンドンでバイク配達の仕事をしながら、夜はクラブで演奏をしていた。あまりにヘトヘトで昼間についうたた寝をすることもあったけど、ようやくレコード契約が取れて音楽だけに専念できるとなったとき、あれは僕にとっての大きな成功を意味していた。

 

― いい話ですね。

 

もうひとつは、『ヒステリア』が10xプラチナのダイアモンド・アワードを受賞したときだね。授与式に呼ばれて演壇に立ったら、目の前にいるのはエルトン・ジョン、ジミー・ペイジ、ビリー・ジョエル、デイヴ・ギルモアと錚々たる顔ぶれなんだ。ダイアモンド・アルバムを授与しているのは全部で68アーティストのみ。あれは不思議だったよ。自分たちは必死だったからそこまでビッグになっていたことに気づいていなかったんだ。あの顔ぶれを前にして、自分たちがその仲間入りを果たしたと知ったのは、決定的な瞬間だったね。僕らはいつも働いてきたから、ここ2年間それをやらないできたというのは不思議だった。でも次にツアーに出るときにはたっぷり充電され、最高の状態になってるはず。コロナ禍で自分を少し見つめ直す時間が取れたのはよかったと思っている。

 

Phil Collen Interview B

Photo by Helen L. Collen

― デフ・レパードという素晴らしいバンドのメンバーであるフィルさんだからこそお聞きしたいんですが、バンドをすること、バンドで演奏することの魅力はなんですか?

 

どんなバンドにいるかによっても違うんだろうけど、僕らは幸いなことに、同じチームでずっと世界中を旅してこれた。本当の家族のようにひとつのゴールを持ってこれた。始めたときはまだまだ子供で、親と一緒に暮らしているメンバーもいたくらいだし、考え方も子供だった。でもそこから色々経験して大人になり、自分たちも親になった。同じ夢やパッションを追ってここまで来られたのは、本当に信じられないことだとしか言いようがない。だからこそ、さっきも言ったように、デフ・レパードは決して古くならないんだ。気をつけなきゃいけないのは、うぬぼれて調子に乗らないこと。常に謙虚に受け止め、自分たちの身に起きたことを感謝するようにしてきた。物事がうまく行かないときには……例えばリックの事故、スティーヴの死みたいに最悪なことだったとしても、人生にはそういうこともある、それで普通なんだと思うようにしたんだ。ここまで続けさせてもらえたのは本当に素晴らしいことだ。逆になぜバンドが解散してしまうのか、理解できないくらいだよ。僕らの場合はそうはならなかった。ゴールは変わらないし、昔と変わらない誠意があるんだ。足を地につけて頑張れることがとても大事なんだと思う。

 

― 今回のインタビューにあたってデフ・レパードの作品を聴き直しましたが、すばらしい音楽は色褪せないと再認識しました。そう言われてみて、ご自身ではどう感じますか? 

 

嬉しいよ。自分たちのやっていることは正しいんだと思える。でも僕自身がクラシック・アルバムと言える昔のものを今も聴いているので、気持ちはよくわかるよ。デヴィッド・ボウイ、マーヴィン・ゲイ、ツェッペリン……。『1971』っていうApple TV+の番組があって、ジョン・レノン、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、Tレックスといった人たちがいかに音楽が世界を変え、影響を与え、また社会で起きていたことが音楽に反映されていたかということを描いたドキュメンタリーなんだけど、今はその頃のような社会と音楽の関連がない。80年代になって、音楽はアート以上にビジネスになってしまったからね。アートとビジネス両方をひとつにすることは可能で、僕らも当時は気づいていなかったけど、実際にそれをやっていたんだ。でも、どこかで人が音楽を作る理由が変わってしまった気がする。自分が年寄りだとは言いたくないが、今の音楽を聴くと、かつてマーヴィン・ゲイやスティーヴィ・ワンダーやジミヘン、ボウイ、ボブ・ディランに曲を書かせていた動機とは違うところからそれらが生まれているように感じられるんだよ。

 

― なんとなく分かる気がします。

 

ザ・フーもそう。彼らの書く歌詞は実際のバンドのサウンドを反映していた。アルバムジャケットのアートワークにもバンドのアーティスティックな気質が反映されていた。そういったことが今はない。時代が違うから、と言われればそれまでだけど、そこが抜けている。今はよりエンターテイメント性が求められていて、TikTokとかそういうものが人気で、いろんなことが帳消しにされてしまうんだ。音楽のアルバムスリーブの大切さとか、曲にこめたメッセージとかね。音楽性にしても、かつてはマイルス・デイヴィスやチック・コリアのように、さまざまな音楽を融合させスタイルを変えて新しいものを作り出していたけど、今ではあまりそういうアーティストはいない。アジェンダ自体が変わってしまったからだよね。ありがたいことに、僕は今と昔、その両方の良さがわかる。レコーディング・スタジオがどんどんなくなってしまっていることが残念だという意見はある。その通りだけど、それ同時にこうやって自宅で多くのレコーディングや曲作りができるのは大きい。両方のいいところを取り入れることは可能なんだよ。

 

― この記事をきっかけにデフ・レパードを初めて聴く若いリスナーにオススメするとしたらどのアルバム、どの曲になりますか?

 

それは『ヒステリア』からの曲になるだろうね。あれはインパクトを与えたアルバムだったと思う。「Pour Some Sugar On Me」は当然ながら人気曲だけど、タイトル曲の「ヒステリア」はなかなかすごい曲だよ。あと、「Rock It」はありきたりのロックソング以上に色々な要素が詰まった曲なので、その2曲のどちらかがいいんじゃないかな。

 

― 最後の質問です。これもデフ・レパードのフィルさんだからこそお聞きしたいんですが、名曲はどうやって名曲たりえると思いますか?

 

名曲であるには、感情の部分に触れる曲でなければならないと思う。本や映画と同じで、読者やリスナーと感情のレベルで触れ合えるものということ。曲は独りよがりになっちゃいけない。ここで言う曲とは、ポップソングのことだね。クラシック音楽とかジャズでは求められるものが違ってくるから。独りよがりになるのではなく、歌詞、メロディ、もしくはその両方、もしくは演奏を通じて、相手に触れること。アーティストはそれぞれの演奏によって、人の心に触れることができる。だからそれを叶えようとするわけだ。少なくともそう努力する。曲において重要なのはそこだよ。でも、ギタリストに限らず、ミュージシャンの中には曲をちゃんと聴かず、自分の演奏しか聴いていない連中がいる。そうではなく、曲全体の構成を聴かなきゃだめなんだよ。曲は生き物だ、呼吸をしている。シンガーは物語を語るナレーターで、そこにはメロディがある。それをリズム、カウンターメロディ、そして演奏でバックアップして、強化する。というように、曲にはたくさんの要素があるんだ。それらの要素がすべて揃えば、一瞬だって気が抜ける瞬間は生まれない。退屈して他のことに気がいく、なんてこともなくなり、常に注意をひいておける。映像、スマホ、メールの通知など、感覚を刺激する情報過多の今の時代には、音楽を聴いていたって気が散ることだらけだろ? だから、それ以上におもしろい曲にしてやれって思うわけだ。喜怒哀楽のどれかに訴え、心をつかむものにしなきゃならない。歌詞もそうだよ。出だしの一言でリスナーに何か考えさせることができれば、あとはその道を突き進むだけだ。

 

前編はこちら

 


フィル・コリン
1957年12月8日、英ロンドン・ハックニー生まれ。ロンドンを拠点とするポストパンク/グラムロック・バンド「ガール」のギタリストとして活動後、1982年にデフ・レパードに加入。翌年リリースした『炎のターゲット(原題:Pyromania)』と87年にリリースした『ヒステリア』が、ともに全米で1000万枚以上のセールスを記録。世界的なハード・ロック・バンドとして名を馳せ、レッド・ツェッペリン、イーグルス、ヴァン・ヘイレンといったバンドと並んで人気を誇る。また、自身がリード・ヴォーカルとリード・ギターを務めるバンド「マンレイズ」では、元ガールのベーシストのサイモン・ラフィ、元セックス・ピストルズのドラマーのポール・クックらと活動を共にしている。

 

Phil Collen OfficialWeb

https://www.philcollenpc1.com/