Marty Friedman Special Interview (後編)

9月 10, 2021

Photo by OGATA / Text by Daishi Ato

ギターや日本の音楽との出会いについて語ってもらった前編に続き、後編となる今回はマーティのジャクソン愛に迫った。自身のシグネイチャーモデルについてもたっぷり話してもらったが、彼の話はメーカーの担当者にまで及ぶ。日本にやってきたマーティを支えた日本人スタッフをはじめ、彼が何より大事にしているのは「人」だということが伝わってくるだろう。そして、最後はまたしてもJ-POPの話で大いに盛り上がるのだった。

 

― マーティさんにとってジャクソンのギターはどういうものですか?

 

僕が初めてジャクソンのギターを弾いたのはハワイに住んでいたときで、その前にもそこそこいいギターを弾いてたんですけど、「何よりもクオリティが高いメタル系のギターが出た」っていう話を聞いて、その頃の僕はすごいメタルキッズだったんですけど、唯一無二というか神秘的な存在感がジャクソンのギターにはあったんですね。それで、当時の僕はホームレスみたいな状態だったのに、当時13万円ぐらいするKellyのギターを手に入れました。で、触った瞬間に「なるほど」と。前に弾いていたギターと勝負にならないぐらい違いました。攻撃的でハードな演奏にも耐えうるぐらい丈夫だったんです。その頃、僕は「ハワイ」というバンドでギターを弾いていたんですけど、ガチでクレイジーなギターマニアバンドだったのでギターが耐えられなくて何度も修理が必要になったり、音が微妙になったりして、仕事道具としてちゃんとしてなかったんです。だから、ジャクソンはすごく重宝しました。

 

― そうだったんですね。

 

あと、僕はレコーディングではエンドースしているかどうかは関係なく、その曲に一番ふさわしいギターを使うんだけど、当時はジャクソンのギター1本で全部レコーディングしていました。「ハワイ」のアルバムも、最初のソロアルバムも、メガデスに入って最初の2枚は同じギターを使った。それぐらいガチでいいギターでした。

 

― なるほど。

 

でも、いくら好きな会社、好きな楽器だとしても、担当してくれる人と相性が合わなければ難しいんですよ。音楽の世界は水商売だから、すぐに人が変わったりするじゃないですか。20代の頃はそういうことに対して心の準備ができてなかったから、担当者が変わったときは本当にショックを受けた。「この人がいなくなったらどうするの?」って。しかも、次の担当者は僕のことを気に入ってくれてなかったりして。だから、売れる売れない関係なく応援してくれる人が一番ありがたいですね。もちろん、楽器メーカーもレコード会社もビジネスだから売れなければ応援できないっていうことは理解しているんですけど、僕がつくっている音楽を本当に信じてくれる人とずっと一緒にいたいですよね。

 

― そうですね。

 

でも、ジャクソンの人とはずっと友だちとしてつながってる。僕は楽器についてまったく興味がないし、知識もないんです。とにかくいい道具がほしい。だから、ギターに詳しい人はどんなものが欲しいか具体的に説明できるけど、僕はまったくわからない。それなのにジャクソンの人たちは我慢して、僕の変なディレクションでも素敵なものを作ってくれました。しかも、僕の活動はほとんど日本ですけど、ジャクソンのお陰でいろいろなイベントに呼んでもらえたり、作品をリリースしたらプロモーションしてくれたり、そういう応援をしてくれることに心から感謝してます。エンドースというのはいい楽器を作るだけじゃなくて、そういうところまで含まれているんですよね。

 

― 今年5月に発売されたシグネイチャーモデルPro Series Signature Marty Friedman MF-1, Purple Mirrorのポイントはどこですか?

 

まず、攻撃的な演奏をしても問題ない。汗で濡れたり、どこかにぶつけたり、血がピックアップに入っちゃったり、激しくチョーキングしても、裏切られない。チューニングもズレないし、音を守ってくれる。デザインとか使うパーツについては僕からはそんなに注文してないんですけど、何回もプロトタイプを作ってもらって、「この音はそんなによくない」「もっと具体的に言ってくれる?」「こういう音が出るようにしてください」「ああ、なるほど」っていうやり取りを繰り返しました。

 

― デザインも凝っていますよね。

 

遠くから見るとただキラキラしてる感じなんですけど、よく見ると割れた鏡のようになってる。この模様はライブの照明によって全然違うギターに見えるんですよ。そういうところもすごく大好きです。ジャクソンはこの見た目を作るために、法律的なルールとか、音に影響があるかどうかとかいろいろ調べてくれて、1年ぐらい時間をかけて作ってくれました。

 

― ライブ、レコーディングの両方で活躍できるギターなんですね。

 

しかも、フォトセッションでも映えるんですよ。カメラマンはこのギターを見るといろいろなアイデアが浮かんでくるみたいです。

 

― マーティさんはこれまでに何本もシグネイチャーモデルを出していると思うんですが、新しいギターが生まれる瞬間というのはいつもうれしいものですか?

 

非常にうれしい。シグネイチャーモデルを出せることは光栄だし、自分の名前を冠したいいギターが生まれることがうれしいです。僕は楽器の具体的なことはわからないですけど、僕がいいと思ったギターを他の人もいいと思ってくれることがすごくうれしい。これはどこから見ても素晴らしいギターです。音、タッチ、見た目、丈夫さ。これ、ピックアップはマーティンなんですけど、それも本体と同じプロセス……僕のよくないディレクションで何回もプロトタイプを作って、完璧になるまで頑張りました。

 

― 大変ですね……。

 

本当に大変だし、本当に申し訳ないですね。でも、最終的には誇りを持てる楽器になりました。そのおかげでアメリカでのレビューが最高なんですよ。今、簡単に手に入らないぐらい人気になっていて、バックオーダーが続いてるみたいです。

 

― どんなギタリストに使ってもらいたいですか?

 

みんな! 本当にジャンルは関係なく、ポップでもありだし、ゴリゴリのメタルでもいい。ピックアップがパッシブで通常よりも人間ぽい、ブルージーな音も出せる。ジャクソンのクリーントーンはフェンダーほど有名ではないけど、このピックアップと楽器の組み合わせで幅広い音色が出せるのは誇りですね。

 

― これからギターを始めたいと思っている人にアドバイスをするなら?

 

目的がなくても弾きまくって、とにかくギターの楽しさを味わってほしい。難しいことにチャレンジするのもいいんだけど、それだとそのうち楽しめなくなって止めてしまう。そうなってほしくないから、とにかく楽しんで。趣味で音楽を弾くことはある意味プロより楽しいかもしれない。今は昔と違って安い値段でいいギターが手に入るし、ギターの楽しさをせめて1年は味わってほしい。最初からガチでやるのはアホ。あと、ギターで魔法みたいに彼女がつくれる! 何もできないヤツと何もできないけどギターは弾けるヤツだったら、ギター弾けるヤツのほうがいいでしょう! これがサックスだと彼女はそんな簡単にはできないと思うんだよね。サックスはプロじゃないとね。でも、ギターはアマチュアとプロの違いがわからないぐらい弾いてる人が多いじゃないですか。

 

Marty Interview 04

 

― では、マーティさんの現在の音楽活動についてお聞きします。4月にオーケストラと共演されていましたね。

 

最高でした。夢のようなイベントでした。オーケストラとのコンサートはこれまでに何回もやったことはあるんですけど、今も少しずつ慣れていってます。現場があまりにロックと違っていて、演奏者はいっぱいいるのに音は小さい。しかも、タイミングとピッチの参考になる音がロックと違うし、ガチで正確に弾かないといけない。ロックはアドリブ命だけど、クラシックはそうはいかないんですよ。今回はバッハとサラサーテと自分の曲を演奏したんですけど、オーケストラ・アンサンブル金沢も評判のオーケストラだし、呼ばれて光栄でした。あと、僕がつくった日本遺産のテーマソング「JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG」を初めてオーケストラと一緒に披露できことのも本当にうれしかったです。

 

― そして昨年は、J-POPカバーアルバム第3弾となる『TOKYO JUKEBOX 3』をリリースしました。オリジナル作とカバーアルバムだと制作の仕方も変わってきますよね。

 

最終的には同じぐらいめちゃめちゃこだわるのでハードなのは変わらないんですけど、カバーはメロディをゼロからつくる必要がない。その代わりに、そのメロディをどうやって僕のバージョンとして価値のあるものにするのか考えるのが大変ですね。だって、オリジナルでも十分最高じゃん? オリジナルバージョンだけでいいし、ほかのバージョンはいらない。その壁さえ乗り越えればソロアルバムと同じようにギターをつくり込んだりしますね。

 

― 今後、どんな活動を考えていますか?

 

恵まれていることに、4月にこのパンデミックの状態で日本ツアーを終えられて、お客さんはもちろん、スタッフの皆さんにもすごく感謝しています。普段とは状況が全く違って難しかったはずなのに問題がひとつもなく終えられて、とても素敵なツアーでした。『TOKYO JUKEBOX 3』は全世界で発売されているので、本当なら今ぐらいの時期にワールドツアーをやるつもりだったんですけど今はそれができないので、日本で楽しいことをやります。でも、ROCK FUJIYAMAチャンネルはすごく楽しいし、相川七瀬の25周年ツアーにも参加するし、日本でできることはいろいろあるけど、僕の中ではまだ『TOKYO JUKEBOX 3』は終わっていないんです。アルバムへの反応は前の2作よりもいいみたいで、レコード会社もすごく応援してくれているし、まだみんなが作品のことを覚えているうちにワールドツアーをやりたいんですけど、いつになるかはまだわからないですね。

― 来日当初、6畳のウィークリーマンションから日本でのキャリアをスタートさせたマーティさんですが、今は音楽以外の分野にも活動の幅を広げています。こんなに様々な活動ができるようになった要因はなんだと思いますか?

最初、日本に来たときにとても素敵な人たちに恵まれたんです。そのときに出会った人たちが今この場に何人もいるんですけど、それが大事だと思いますよ。信用できる人たちがいることが一番大事。

 

― 人、ですか。

 

日本に来たばかりのとき、メガデスのマーティということを絶対に知られたくなかったんですよ。もちろん、メガデスも自分にとってはいい歴史だけど、過去は過去じゃん。日本に来たのは新しいことを始めるためだったから、「僕は元メガデスのマーティです、一緒に何かしよう」っていう意識はゼロ。だから、完全にゼロから始まったんです。でも僕は本当にコネがなかった。あるとしても洋楽部の人たちばかりで、洋楽部の人たちはびっくりするほど邦楽のことを知らなかった。そういう状態から少しずつ邦楽の世界に足を踏み入れて自分の目的に近づいていきました。

 

― 最後に、最近好きなJ-POPはなんですか?

 

tricotです。まあ、海外だとこれはポップミュージックには入らないと思うんですけど、tricotの新作はガチで好きですね。あと、YOASOBIはJ-POPに欠かせないメロディの展開が必ず入ってるのになぜか新しく感じられるところがすごく好き。

 

― King Gnuとかは?

 

すごく好き。とっても好き。ミュージカル(音楽的)ですから。そこが海外とは違うんですよね。King Gnuとか米津(玄師)さんとかとってもミュージカルでディープ。アメリカのカーディ・Bとか、ミュージカルじゃないでしょ? でも、超売れてるんですよ。音楽と関係ないんだよ。だからなおさら日本の音楽センスはミュージシャンの心が温まる。日本人はただのファッションやスタイルだけじゃなくて、ちゃんと音楽を聴いているんですよ。だからそこに望みがある。アメリカの音楽は聴けば聴くほどがっかりするんですよ、音楽的に。

― King Gnuはたしかにすごく音楽的ですけど、海外でもウケると思いますか?

 

たぶん、ミュージシャンにはすごくウケると思う。僕はそういう日本の音楽をアメリカのミュージシャンに聴かせるわけ。そうするとみんな、「え~、いいな~」って言いますよ。キメの多さとかビートの面白さとか音の重ね方とか、本当に演奏が上手じゃないと考えられない。ミュージシャンは聴けば絶対によさがわかる。中田ヤスタカさんとか絶対にわかる。Perfumeの「ポリリズム」も向こうでジャズをやってる友だちに聴かせたら、「日本人はこんな変拍子を聴いてるの?」って言うから、「この曲、チャート1位になったんだよ」って教えたら、「ええ~!? こんな曲が1位になるなんて天国じゃん!」って。

 

― あはは!

 

そういう日本の音楽のよさは薄まってほしくないですね。

 

― でも、最近は海外のトレンドを積極的に取り入れているJ-POPも増えていますよね。

 

取り入れてると言っても、厳密には取り入れていないんですよ。J-POPには外せない部分がちゃんとある。例えば、向こうでシンガーソングライターが流行って、日本のアーティストもアコギ1本と歌で同じようなことをしたとしても、コードの数が違う。日本のほうが向こうに比べて3、4倍は多いし、歌謡曲のメロディも外さない。だから、いくら向こうの影響を受けていても僕の好み的には構わないですね……こういう話はし始めたらキリがないですね!(笑)

 

前編はこちら

 


マーティ・フリードマン
アメリカでの音楽活動を経て、2004年に活動の拠点を日本・東京へと移す。 2005年からテレビ東京で放送された伝説のロックバラエティ番組『ヘビメタさん』にレギュラー出演し、日本国内のヘヴィメタルファンだけではなくYouTubeを通じて世界のヘヴィメタルファンを驚かせた。続編レギュラー番組『ROCK FUJIYAMA』は世界各国で話題の番組となる。 その後、テレビ番組に多数出演。雑誌や新聞でも連載を持ち、初の執筆書籍『い~じゃん! J-POP だから僕は日本にやって来た』はベストセラーに。2008年には映画『グーグーだって猫である』『デトロイト・メタル・シティ』にも出演。ギタリスト、作曲家、プロデューサーだけにとどまらず、テレビ、ラジオ、CM、映画などさまざまな分野で活躍している。

 

ROCK FUJIYAMAチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCLmF8nkHDUap8ztsGnROWqg

 

Marty Friedman Official YouTubeチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UC8p0ZqjT7f_zZiS-py5w-WQ

 

Marty Friedman OfficialWeb

http://martyfan.com/