RYOJI SPECIAL INTERVIEW(後編)
7月 22, 2022
Photo by Mitsuru Nishimura / Text by Daishi Ato
GYZEのギタリストとしてベーシックな話を中心に聞いた前回に続いて、後編となる今回は、世界がGYZEに与えたとてつもなく大きな影響、世界中を見て回ってきたからこそ感じる国内と海外における音楽シーンの決定的な違い、そしてプロデューサーにトリヴィアムのマシュー・キイチ・ヒーフィーを迎えて制作に入るニューアルバムについてRyojiから話を聞いた。インタビューの最後、再び海外の人々とのコミュニケーションの話になるが、これは音楽ファンだけでなく、他言語で仕事をしたいと考える多くの人にとってためになる内容になっていると思うので、ぜひ読んでみてほしい。
― GYZEはデビュー以降、世界中を駆け回っているわけですけど、その中で印象に残っている出来事やライブはありますか?
いっぱいありますねえ。さっきも言いましたけど、ありがたいことに僕らGYZEが日本人として初めて出たフェスティバルっていうのが意外とたくさんあるんですよ。ドイツの<サマー・ブリーズ・オープン・エア>とか、さっき話した<70,000トンズ・オブ・メタル>もそうなんですけどそういうフェスに出られるのはうれしいし盛り上がるんですよね。あとはチルドレン・オブ・ボドムと一緒に回ったときもうれしかったですね。そのとき<ヤング・ギター>で対談もできたし。最初に共演したのは中国のフェスティバルだったんですよね。僕らの演奏のあとに同じステージでチルドレン・オブ・ボドムっていうすごくいいタイミング。しかも、僕らにとってそれが初めての野外フェスだったんですよ。で、それが終わってそのまま<LOUD PARK>に出て。あとは、ひと月以上毎日ライブをやるようなヨーロッパツアーをバトル・ビーストと一緒に回ったのも楽しかったし、音楽をやることでいろんなものを見られたというのが一番うれしいですね。
― ヨーロッパのツアーってめちゃくちゃ過酷じゃないですか?
ところが、毎日やることは一緒だし、演奏が終わったらバスに乗って寝て、起きたら次の街に着いてって感じなので、国内ツアーのほうがマジで疲れますよ。国内は細々とした移動が多いし、いろんな交通手段を使ったりするので、僕はヨーロッパの長期ツアーのほうが楽ですね。10日連続ライブとかですけど。
― ええ!?
40日間で37公演やったんですよ。
― それは強烈ですねえ! それでも国内に比べると楽なんですか。
その頃はそう思いました。ツアーが終わりに近づくに連れて、メンバーの中にはカウントダウンを始めるヤツもいたりしましたけど(笑)。
― そうやって世界を経験していく中で、自分たちの音楽にもフィードバックがあるわけですよね。
そういうツアーをしてから僕らのサウンドは変わって日本を意識するようになりました。世界を見たときに「あ、モノマネじゃダメなんだ」ってすごく思ったんですよ。それ以降、世界中探してもほかにいないサウンドをGYZEは出しているので、プライドを持てるようになりましたね。雅楽とメタルを融合させたりってありませんもんね。最初はどんなバンドも憧れから始まると思うんですけど、今は憧れではなく、自分たちだけの世界で、自分たちだけのオリジナリティを見つけたバンドをやっているという自負が芽生えています。それは間違いなく世界から日本を見たからですね。
― なるほど。
<サマー・ブリーズ・オープン・エア>に出たときにドイツのバンドがドイツの音楽っぽいことをやってたんですけどそれがめっちゃフィットしてて、自分たちもそうでありたいと思ったんですよ。そこから工夫するようになったし、作曲家として大きな転機になりましたね。
― もっとオリジナルであるべきだと。
そう思ったし、そこにしか価値はないと思ってます。日本には欧米に負けないぐらいカッコいいバンドがたくさんいるじゃないですか。でもどれもめっちゃ欧米っぽいじゃないですか。おそらく、それじゃあ本物がいるんだからそのうちに聴いてもらえなくなるんですよね。
― では、国内でシンパシーを感じるバンドっていますか?
もちろんマーティ・フリードマンさんです! 彼は日本人ですよね?(笑) 。また、X JAPANのYOSHIKIさんが好きです。自分の将来を想像したときに、YOSHIKIさんみたいなアーティストになれたらいいなと思ってますね。曲も好きだし。
― 国内と海外のメタルシーンを見て感じることはありますか?
これはよくも悪くもなんですけど、日本の企業全般に言えるのが、国内向けだけで仕事が成り立ってしまうがゆえに、この15年でトレンドにしても何にしても海外と圧倒的な差が生まれたと思います。それは顕著に感じます。
― 具体例を挙げられますか?
例えば、今はCDが売れなくなってるから海外のレーベルが日本盤を出すメリットがなくなってるんですね。そうなると日本のメディアは広告費がもらえないから、海外の新しいバンドを広められなくなってしまう。だから、最近の音楽雑誌を見るとそこに載ってるのはいつものメンツなんですよね。
― たしかにそうですね。
でも、海外ではちゃんと循環してるんですよ。新しく人気になってきてるバンドがいっぱいいる。そういったバンドは昔なら日本でも海外と同じタイミングで有名になれたのに今では大きな差が生まれてるんですよ。それはやっぱり日本の国民が英語で物事をキャッチしないことが原因だと思うんですよね。そういう差は僕らみたいなヘヴィメタルの枠にいると特に感じます。逆にランゲージバリアがあるからこそ成り立つ日本語用のソフトウェアの販売みたいなビジネスもあると思います。あと、アニメとかマンガは日本の輸出産業の中で自動車産業に次ぐ大きいもののひとつだと思うので、一概にいい悪いでもないのかなと。それに国がミュージックエンタテインメントを外貨を獲得する産業としている韓国やフィンランドのような国は強いです。
― 難しいところですね。
オーディエンスの趣向も大きな差があることは間違いなくて。例えば、スロバキアにあるうちの地元みたいな田舎でもメタルフェスになると「どこから湧いて出てくるんだろう」っていうぐらいめちゃめちゃ人が来るんですよ。島国と大陸っていう大きな違いはありますけど、確実に差は開いていると思います。ポップスの面でも韓国に差をつけられているし。韓国の場合、国内のシーンだけでは成り立たないからスタートラインの時点ですでに世界を見ているんですよね。フィンランドやノルウェーみたいな北欧諸国もそう。人口が北海道と同じ500万人ぐらいしかいないから、最初から外に出していくという意識がある。僕が国内で仕事をしているとみんな国内に向けた仕事しか提案してこないなといつも思っています。
― 日本の状況は本当によくも悪くもですよね。
でも、ここ数年の日本はすべてにおいていい話をあまり聞かないですよね。ちょっと頑張らなきゃいけないのかもしれないですね。
― そんな状況で今後、GYZEはどんな活動をしていきたいですか?
GYZEは世界中にファンがいるので、まずは「アジアのメタルといえばGYZE」という状態にしたいと思ってます。でも、向こうのバンドに追いつくとかそういうことは考えてなくて。日本のバンドとして知ってもらいたいし、逆に世界に日本の音楽を教えてあげたい。「SAMURAI METAL」っていうわかりやすい曲をつくったのもそういう理由ですね。
― 大切なのはあくまでも自分たち。
とはいえまだまだこれからのバンドなので日々勉強中です。
― これから新作の制作に入るそうですね。
次回のGYZEのアルバムのプロデューサーはトリヴィアムのマシュー・キイチ・ヒーフィーさんなんです。GYZEがヘヴィメタルと雅楽や三味線なんかを混ぜたような音楽をやってることを彼が知ってくれてコンタクトを取るようになって。
― 向こうからコンタクトを取ってきたんですか?
イギリスのメタルハマーって雑誌の担当者がキイチさんにGYZEを勧めたはずなんです。それでコンタクトを取ってチャットするようになって。ちょうどキイチさんもIBARAKIっていうソロ・プロジェクトで日本神話にフォーカスしたブラックメタルを始めたばかりで、日系の方ですし日本にアイデンティティを感じてるんだと思うんです。そんなこともあってプロデュースしてくれる話になって、なんなら今はマネージメントっぽいこともしてくれてるんですよ。アルバムにはキイチさんがGYZE用につくった曲とか共作した曲も入ることになってて。
― すごい! IBARAKIは曲のタイトルも日本語だったりしますもんね。
そうですね。スサノオノミコトが出てきたり、すごく勉強されてると思うし、本人の中にある日本人としてのアイデンティティを外に出したいっていう思いがあると感じています。それでGYZEに共感して一緒に仕事をすることになったと思うんですよね。さらにラッキーなことにIBARAKIが日本ツアーをやるときはGYZEがバックバンドやる話になってます。
― それはいいですね。
それでちょうど今日、Jacksonの7弦 (PRO SERIES SOLOIST™ SL7A MAH HT / UNCORN WHITE)を手に入れました。このプロジェクトに必要なギターです。最初はキイチさんが別ブランドの7弦ギターを用意してくれるって言ってくれたんですけど。USのJacksonのスタッフからギターのリストをバーっと送ってもらって。最初はWarriorもアリかなと思ったんだけど、重くなると思ったのでSOLOISTにしました。すごくキレイなギターです。
― お話を伺ってて思ったんですけど、Ryojiさんは交渉が上手ですね。
どうなんですかね。物怖じせず交渉するからじゃないですかね(笑)。あとは絶対的に英語。でも、僕の英語は全然完璧じゃないですよ?
― 英語はどうやって身に着けたんですか?
女性を口説きまくった(笑)。というのは冗談で外国、国内問わず人を大切にしていきたいので国籍関係なく関係が築かれることが多いです。
― あはは! 正しい英語が使えないから恥ずかしいし止めておこう、じゃなくて、ちょっとはできるからとりあえず連絡してみるということが大事なんですね。
性格上、完璧じゃなくていいと思ってるタイプでなんでも言ってみるタイプなんですよ。だから、ダメならダメで仕方ないしなんとも思わないので。
― それはコミュニケーションとして正しいですね。
……あ、思い出した。海外と初めて仕事することが決まった頃の話なんですけど、たまたま入った居酒屋で僕の隣の席に海外経験のある女性の方が座ってて世間話になったんですよ。そのときに「海外で仕事するなら自分のやりたいことをダメ元でいいから全部言ったほうがいいよ。日本人って遠慮すんじゃん? あれ、絶対しないほうがいいからね。そうしたほうが上手くいくこといっぱいあるから」って言われて、それがすっごい参考になったんですよ。それをきっかけになんでもリクエストするようになったんですよ。あのときの居酒屋、ありがとう!(笑)……まあ、僕、一切酒飲めないんですけど。
― え! じゃあ、海外ツアーに行っても飲まないんですか?
飲まないし、打ち上げにも基本的には出ないです。その代わりに国内でも海外でも釣り竿を持って行くんですよ。で、ライブが終わると水辺を探してひとりで釣りをしてる。
― 酒飲まない、打ち上げ出ない、ライブ後は釣り。ほかのバンドとはどうやって交流してるんですか?
特に意識せず世間話したりビジネスの話したり楽器の話したりですかね……あと釣りかな? (笑)
― 普通に楽屋に行ったり?
そうです。しかも、意外と釣り好きが多いんですよ。バトル・ビーストのギタリストも釣りが好きで、向こうが大きい魚を釣るたびにフェイスブックで自慢されるんですよ。そうやって常につながってます。
― そういうものなんですね! では最後に、これからギターを始めたいと思ってる若い子たちに練習する上でアドバイスを教えてください。
オンラインレッスンをやってるから習いにきてください!(笑)
― そうなりますよね(笑)。
ギターを始めた人の9割が1年以内に挫折してしまうと聞きました。その気持ちはわかるんですよ。特に今のSNSの時代は上手い人に触れることが簡単。それも素人の。だからこそ比較じゃなくて自分が楽しむことにフォーカスできれば止めずに済むのかなと思います。逆を言えばいい教材が溢れてると思えばさらに良いですよね。
― シンプルにギターを楽しむためにはどうしたらいいと思いますか?
簡単なものから始めること。セックス・ピストルズでもいいし、キッスでもいいし。大事なのは小さな成功体験の積み重ねだと思うんですよね。だから、すごい人の演奏を見てがっかりしないでほしい。人と比較するから止めちゃうんだと思います。そう考えると今の時代は残酷なのかもしれないですね。
― 同年代の子がYouTubeにバカテク動画とか上げてますからね。
そうそうそう。もし僕が10代の頃にYouTubeがあって、同い年とか自分よりも年下のギター上手いヤツの動画見たらふてくされて止めてたかもしれないですね(笑)。
― Ryojiさんが中学で一番上手いと思ってたというのはいいことですよね。
それもありますね。あとは母がいつも褒めてくれてたのが嬉しかった。喜んでくれるからついつい練習しては披露してました。ギターは確かにクラシック音楽よりも敷居が低いけど、ギターといえど鍛錬する時間は必要なので、その鍛錬を楽しめる人に向いてると思います! ぜひ頑張ろうとは思わずに楽しんでください!
Ryoji Shinomoto
1989.11.8生まれ。
GYZE(ギゼ)のフロントマン、コンポーザー。
ギターボーカルの他に龍笛、三味線、二胡、バイオリンなども演奏する
マルチプレイヤー。
2013年「Fascinating Violence」でヨーロッパより全世界デビュー。
これまでに〈70000tons of Metal〉、〈Summer Breeze〉、〈Leyendas del rock〉などといった世界中のメタルフェスに日本人として初出演を果たす。
現在TriviumのMatthew氏プロデュースにより5枚目となるアルバムを制作中。またMatthew氏のソロプロジェクトIBARAKIの日本ツアーでギタリストを務めることが決まっている。
Ryoji Shinomoto Official Web
https://www.ryoji-shinomoto.info/
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